
防弾装備(アーマー)を選ぶ際、「どの弾丸を防げるか」といった防弾レベルや着用時の重量と快適性を考える必要があります。
この記事では、防護性能を理解するため、拳銃弾を防ぐ「ソフトアーマー」とライフル弾を防ぐ「ハードアーマー」の構造と防弾原理を解説します。
さらに、装備の信頼性を示すNIJ(米国)やVPAM(国際)といった世界の防弾規格を詳しくご紹介します。
防弾の仕組み
アーマーは柔軟な素材のソフトアーマーと、セラミックやポリエチレン製のハードプレートに分かれます。前者は拳銃弾向けで長時間の装着に適し、後者はライフル弾を防ぎますが重くなります。(両者を組み合わせたタイプもあります)
ソフトアーマーとは?

ソフトアーマーは、拳銃弾からの防護を目的とした、柔軟性と軽量性が特徴の防護材です。
ハードアーマー(ハードプレート)とは?

ハードアーマーは、主にライフル弾などの高速・高エネルギー弾からの防護を目的とした硬質プレートです。
アフガニスタンで戦闘中、米軍のダニエル・マルム軍曹は敵狙撃兵の弾を2発受けましたが、防弾プレート「ESAPI(強化小火器防護板)」が弾丸を止め、命を救いました。衝撃で肋骨が折れたものの、数か月後には現場に復帰しています。

画像出典:Sgt. Daniel Malm (According to the US Army news article), Public domain, via Wikimedia Commons
事件後、マルム軍曹の損傷したプレートは技術分析のためバージニア州フォートベルボアへ送られ、防護性能の検証に使われました。この結果は次世代防弾装備の改良に活かされ、新型ボディアーマー「モジュラースケーラブルベスト」の開発にもつながっています。
のちに、分析を担当したキャシー・ブラウン中佐らがプレートを本人に返還する式が行われ、マルム軍曹は妻とともに出席しました。彼は「ボディーアーマーは重いと言う人もいるが、私はこれで命を救われた」と語り、装備の重要性を示す実例となりました。
防弾規格の種類
防弾装備の規格は国ごとに定められ、どの弾薬に耐えられるかを示しています。
規格ごとに特徴や試験条件が異なり、特定の地域でのみ想定される弾薬も含まれることがあります。
以下のような規格が存在します。
各規格は想定する弾薬や試験条件が異なるため、防護力を比較する際には対応弾薬や裏面変形制限を確認する必要があります。
コンディショニングとは、NIJ(全米司法研究所)の防弾試験で用いられる前処理のことです。防弾装備のサンプルを温度変化、湿度、曲げやねじりといった機械的ストレスにさらし、その後に弾道試験を行います。これにより実際の使用や経年劣化を再現し、装備が新品の状態だけでなく使用後も規格を満たすかを確認できます。
NIJ規格の防弾レベル分類
NIJ(全米司法研究所)の防弾レベルは、想定される弾種と速度に応じて防護性能を分類した規格です。
Level IIA(ソフトアーマー)
Level IIAは、低速度の拳銃弾を主に想定した防護レベルです。日常的な軽度の拳銃弾に対応します。
交通機動や機動性を優先する場面には向いていますが、屋外でライフル弾による脅威が想定される場合は上位レベルを選択する必要があります。
Level II(ソフトアーマー)
Level IIは、中〜高速の拳銃弾に対応するソフトアーマーの一段上の防護レベルです。警察や保安、私設警護など、やや高エネルギーの拳銃弾が想定される業務に適しています。
衝撃吸収により裏面での非致死的損傷(打撲など)が生じる場合があるため、着用時はフィット感を適切に調整します。
Level IIIA(ソフトアーマー)
Level IIIAは、ソフトアーマーとしては最高レベルで、ほとんどの非徹甲拳銃弾とサブマシンガンに用いられる高圧の拳銃弾に対応する防護レベルです。市街地でのハイリスク任務や近接戦闘に適しています。
体の可動域を維持しつつ最大限の保護を得るには、ポケットにハードプレートを挿入する併用を検討すると良いです。ただしソフトアーマー本来の快適性や可動性は低下します。
Level III(ハードアーマー)
Level IIIは、ハードプレートを用いることで非徹甲のライフル弾を阻止することを目的とした防護基準です。野外や戦術行動でのライフル弾に対応する用途に適しています。
胸部への一撃の阻止が主要目的ですが、スプレッドショットやマルチヒット(多発被弾)では裏面での破片侵入や二次ダメージが発生する可能性があります。側面や腹部の防護も検討し、運用時には可動性と防護力のバランスを考慮する必要があります。
Level III+(ハードアーマー、業界非公式)
Level III+は、NIJ(全米司法研究所)の正式な区分には含まれない、業界で使われる用語であり、Level IIIの基準を上回るがLevel IVには達しない強化型ハードプレートを指します。
メーカーが独自試験や民間ラボ試験で「5.56×45mm NATO M855(グリーンチップ)」など、通常のLevel IIIでは信頼性が低い高初速・貫通力のある弾種に対処できる性能を検証したプレートに対して用いる表現です。
Level III+は「より高い実戦的脅威」に備えるための業界的な目安であり、有効性は製品ごとの試験内容に依存します。NIJ公式のLevel III/IVと比較すると位置づけが明確でない点があるため、導入の際は試験条件、ヒット数、環境試験の有無などを確認し、想定する脅威に対して十分な検証がなされているかを確認することが重要です。
Level IV(ハードアーマー)
Level IVは、最も高い防護レベルで、アーマーピアシング(徹甲)ライフル弾を単発で阻止することを基準とした装甲です。特殊部隊や重武装状況での防護を想定しています。
プレートの損傷やクラックは防護性能を著しく低下させるため、落下や衝撃を避け、使用前後の点検を徹底する必要があります。
NIJ規格比較
| 弾薬名 | Level IIA | Level II | Level IIIA | Level III | Level IV |
|---|---|---|---|---|---|
| 9mm FMJ | 阻止 | 阻止 | 阻止 | 阻止 | 阻止 |
| .40 S&W FMJ | 阻止 | 阻止 | 阻止 | 阻止 | 阻止 |
| .357マグナム JSP | 貫通 | 阻止 | 阻止 | 阻止 | 阻止 |
| .357 SIG FMJ | 貫通 | 貫通 | 阻止 | 阻止 | 阻止 |
| .44マグナム SJHP | 貫通 | 貫通 | 阻止 | 阻止 | 阻止 |
| 5.56mm(非徹甲) | 貫通 | 貫通 | 貫通 | 阻止 | 阻止 |
| .50 AE | 貫通 | 貫通 | 貫通 | 阻止 | 阻止 |
| .500 S&W | 貫通 | 貫通 | 貫通 | 阻止 | 阻止 |
| 7.62×51mm NATO FMJ | 貫通 | 貫通 | 貫通 | 阻止 | 阻止 |
| .30-06 M2 AP(徹甲弾) | 貫通 | 貫通 | 貫通 | 貫通 | 阻止 |
| .50 BMG | 貫通 | 貫通 | 貫通 | 貫通 | 貫通 |
NIJの新規格(2024年4月以降)
NIJは2024年4月に規格を改定し、試験手順を定める「NIJ Standard‑0101.07」と防護レベルを定める「NIJ Standard‑0123.00」を採用し、旧規格(0101.06)を更新しました。
HGはハンドガン、RFはライフルを対象とする分類です。
| 弾薬名 (弾頭重量・弾種) | HG1 | HG2 | RF1 | RF2 | RF3 |
|---|---|---|---|---|---|
| 9mm(124gr FMJ) | 阻止 | 阻止 | 阻止 | 阻止 | 阻止 |
| .357 マグナム(158gr JSP) | 阻止 | 阻止 | 阻止 | 阻止 | 阻止 |
| .44 マグナム(240gr JHP) | 貫通 | 阻止 | 阻止 | 阻止 | 阻止 |
| 5.56×45mm NATO M193(56gr) | 貫通 | 貫通 | 阻止 | 阻止 | 阻止 |
| 7.62×39mm スチールコア | 貫通 | 貫通 | 阻止 | 阻止 | 阻止 |
| 7.62×51mm NATO M80(147gr FMJ) | 貫通 | 貫通 | 阻止 | 阻止 | 阻止 |
| 5.56×45mm NATO M855(61.8gr) | 貫通 | 貫通 | 貫通 | 阻止 | 阻止 |
| .30-06 M2 AP(165.7gr AP) | 貫通 | 貫通 | 貫通 | 貫通 | 阻止 |
NIJ規格は主に法執行機関向けの基準であり、米軍装備は必ずしもNIJ試験を受ける必要はありません。
ソフトアーマー(繊維系アーマー)は貫通抵抗だけでなく、着用者へ伝わる衝撃エネルギーも評価されます。
まとめ
本記事では、防弾装備の「貫通阻止力」を理解するための基礎知識として、ソフトアーマーとハードアーマーの構造と防護原理、そして世界の主要な防弾規格について解説しました。
防弾装備の選択で重要なポイント
軽量な装備は動きやすく疲れにくいですが、防御力はやや下がります。重い装備は防御力に優れますが、長時間の装着には不向きです。
装備を選択する際は、ご自身の「想定される脅威」と「任務における機動性の要求」を明確にし、そのバランスに基づいた最適な防護レベルの製品を選ぶ必要があります。購入や運用前には、最新の規格情報とメーカーの試験報告書をご確認ください。
- 弾頭:銃弾の先端部分で、標的に衝突してエネルギーを伝える主要部分です。
- フルメタルジャケット(FMJ):弾頭全体が金属被膜で覆われ、変形しにくく高い貫通力を持つ弾薬です。
- ホローポイント:弾頭先端が空洞化され、着弾時に膨張して標的内でエネルギーを放出する弾薬です。
- ソフトポイント:弾頭の先端に鉛芯が露出し、標的命中時に変形しやすく威力を内部で発揮する弾薬です。
- 徹甲弾(AP弾):硬質コアを備え、装甲板などを貫通できるよう設計された弾薬です。
- フラグメンテーション:弾頭が標的に命中した際に破片化し、複数の破片が飛散する現象です。
- タンブリング:弾頭が標的内で横転し、不規則な動きをすることでエネルギーを放出する現象です。
- 裏面変形(BFD):防弾装備が弾丸を止めた際に、着弾面の裏側にできる変形の深さを示す指標です。
- コンディショニング:防弾装備を試験前に温度変化や湿度、曲げなどのストレスにさらす前処理です。
- ソフトアーマー:繊維素材を用いた柔軟な防弾装備で、主に拳銃弾に対応します。
- ハードアーマー:セラミックや金属を使用した硬質プレートで、ライフル弾や徹甲弾に対応します。
- セラミックプレート:セラミック材で作られたハードアーマー用防弾プレートで、破砕によって弾頭のエネルギーを吸収します。
- VPAM(国際規格):レベル1〜14に分かれる国際的防弾規格で、拳銃弾から徹甲ライフル弾までを評価します。
- TR(ドイツ規格):ドイツの防弾規格で、SK L〜SK 4の区分を持ち、VPAMに基づく試験を採用します。
- HOSDB(イギリス規格):イギリスの防弾規格で、HG1/A〜RF2などの区分を持ち、拳銃弾からライフル弾までを対象とします。
- GOST(ロシア規格):ロシアの防弾規格で、旧規格は1〜6A、新規格はBR1〜BR6に分類されます。
- NIJ(アメリカ規格):全米司法研究所による防弾規格で、従来のLevel IIA〜IVから2024年以降はHG・RF分類に移行しました。
- 米軍規格:米軍独自の防弾規格で、SAPIやESAPIプレートを含み、拳銃弾から徹甲弾までを対象とします。
- Level IIA:低速度の拳銃弾に対応するソフトアーマー基準です。
- Level II:中速〜高速の拳銃弾に対応するソフトアーマー基準です。
- Level IIIA:ソフトアーマーとして最高水準で、高圧拳銃弾に対応します。
- Level III:非徹甲ライフル弾に対応するハードアーマー基準です。
- Level III+:NIJ非公式の業界用語で、Level IIIを上回るがLevel IV未満の強化型ハードアーマーです。
- Level IV:徹甲ライフル弾に対応する最上位のハードアーマー基準です。
- M870:レミントン社製のポンプアクションショットガンです。
- ベレッタ92:イタリア・ベレッタ社製の9mm口径セミオートピストルです。
- .44マグナム:高威力のリボルバー用拳銃弾で、代表的なマグナム弾薬の一つです。
- グロック(Glock):オーストリアのグロック社製セミオートピストルの総称で、世界中で採用されています。


