
.223レミントン弾と5.56×45mm NATO弾(5.56 NATO)は、外見上ほとんど見分けがつかず、同じマガジンや銃の仕様に適合することが多い弾薬です。
しかし、「薬室設計」「最大腔圧」「弾薬仕様」「用途」に大きな違いがあり、これらすべてが安全性、精度、信頼性に影響を与えます。
この記事では、.223レミントン弾と5.56 NATO弾の違いについて解説します。
.223レミントンとはどんな弾薬か

.223レミントン弾は、1957年にレミントン社とフェアチャイルド・インダストリーズが共同開発した、リムレス・ボトルネック型のセンターファイア中間弾薬です。
米陸軍の「小口径高速(SCHV: Small Caliber High Velocity)」弾薬開発計画の一環として生まれたもので、当時の.222レミントン弾をベースに、薬莢をわずかに長くして火薬量を増やすことで、55グレインの弾頭を約3,300フィート毎秒という高初速で発射できるように設計されました。
グレイン (grain): 弾頭の重さを表す単位です。1グレインは約0.065グラムで、主に米国で使われます。
この弾薬は、5.7mm(0.2245インチ)径の弾頭を使用し、従来の大口径弾よりも高い命中精度、射撃時のコントロール性、そして有効射程の向上を目的としています。
軍用としては1963年に「5.56mm弾 M193」として正式採用され、アーマライト「AR-15」とともに制式化されました。このライフルは後にM16として発展し、米軍の制式小銃となります。
同時期にレミントン社は、.223レミントンを狩猟やスポーツ射撃向けの市販弾としても発売しました。
高初速・低反動・平坦な弾道といった特性から、害獣駆除(バーミントハンティング)や精密射撃競技などで広く使用されるようになりました。
軍用の5.56 NATO弾と.223レミントンは、薬莢の寸法はほぼ同一ですが、軍用弾は通常、より高い腔圧(薬室内圧力)で設計されています。
.223レミントンの主な用途は以下のとおりです。
現在、.223レミントンは世界中で最も普及している弾薬の一つです。
軍用弾をルーツに持ちながら、優れた命中精度、反動の軽さ、高い初速といった性能が評価され、民間でも幅広い用途で使用されています。
.223レミントンと5.56 NATOの主な違い
5.56 NATOの薬室は「リード」(フリーボア)が約0.125インチと長く、緩やかな角度を持つ設計で、弾頭に余裕を持たせることで高い信頼性と高圧弾薬の安全な使用が可能です。

銃器における「フリーボア(freebore)」とは、薬室とライフリングが始まる部分の間にある、銃身内部の円筒形の「無ライフリング区間」を指します。フリーボアの直径はライフリングの溝径よりもわずかに大きく、弾頭が抵抗なく加速できるようになっています。
薬室の前方には「スロート」と呼ばれる部分があり、これはフリーボアと「リード」(フリーボアからライフリングへと緩やかに繋がるテーパー部分)で構成されています。リードの角度は通常1〜3度ほどです。
フリーボアの長さは、発射時に弾頭がライフリングに接触するまでの「ブレットジャンプ(弾頭が何にも接触しない距離)」に影響し、フリーボアが長いと、装薬容量の拡張・初速向上・摩耗軽減といった高威力・高耐久を目指す設計において利点があります。
一方で、精密射撃や命中精度重視の用途では、短めのフリーボアが選ばれることが一般的です。
ただし、発射のたびに高温のガスによって銃身内部が摩耗し、フリーボアの寸法は次第に拡大していきます。この現象はスロートエロージョン(throat erosion)と呼ばれます。
対して、.223レミントンはリードが約0.085インチと短く、急角度で精度を重視しています。
また、最大腔圧(薬室圧力/チャンバープレッシャー)は5.56 NATOが約62,000 psiの軍用仕様であるのに対し、.223レミントンはSAAMI規格で55,000 psiが上限です。
圧力試験の方法も異なり、5.56 NATOは常に.223より高圧に耐える設計とされています。
項目 | .223レミントン | 5.56 NATO |
---|---|---|
リード (フリーボア) | 約0.085インチ 短く急な角度で精度を重視 | 約0.125インチ 長く緩やかな角度で信頼性を重視 |
最大腔圧 | 55,000 psi(SAAMI規格) | 63,000 psi(軍規格) |
試験方法 | SAAMI方式で圧力測定 | NATO方式で測定 (数値の比較は困難) |
用途の傾向 | 民間向け、精密射撃に適す | 軍用、信頼性と耐圧性を重視 |
薬室のリードが短い.223レミントン薬室で高圧の5.56 NATO弾を使用すると、銃弾がライフリングに早期に接触し、薬室内の圧力が危険なほど上昇する可能性があります。
圧力測定方法の違い
弾薬の薬室内圧力を測定し、安全性や性能を評価するための統一された試験方法があり、主に以下の3つの規格があります。
SAAMIは製造現場や民間用途に向いた「簡単で安価な方法」ですが、EPVAT/CIPは軍用や法的検査に向いた「高精度だがコストのかかる方法」といった違いがあり、用途に応じて選択されます。
.223レミントンの歴史

以下は、.223レミントン弾およびその派生弾であるM193、M855(SS109)、M855A1の開発から採用までの主要な出来事を時系列でまとめたものです。
年代 | 弾薬名 | 主な出来事・特徴 |
---|---|---|
1957年 | .223レミントン | SCHV弾として開発開始、.222レミントンを延長 |
1959年 | .223レミントン | 「.223レミントン」と命名 |
1963年 | M193 | 米軍正式採用、M16の標準弾 |
1964年 | .223レミントン | 民間向け発売、射撃・狩猟に普及 |
1970年代後半 | M855(SS109) | NATO規格化に向け開発開始 |
1980年 | M855(SS109) | NATO標準弾に採用、M193に代わる |
2010年頃 | M855A1 | 環境配慮型強化性能弾として米軍採用、性能向上と摩耗問題あり |
5.56 NATO弾とは何か

5.56 NATO弾(5.56×45mm NATO弾)は、リムレス・ボトルネック形状のセンターファイア式ライフル弾で、1980年にNATOによって小銃用の標準弾薬として制式化されました。
M16やM4などの軍用ライフル向けに設計され、現在ではNATO加盟国および多くの非加盟国でも広く使用されています。
この弾薬は、元となった.223レミントン弾をベースに、ベルギーのFNハースタル社が開発したもので、外観や寸法は類似していますが、より高い腔圧と軍用規格に基づいた薬室設計など、技術的に相違点があります。
弾頭の直径は.224インチ(約5.7ミリ)で、弾の重さに応じて銃身(バレル)のツイストレート(転度)は1:7~1:9インチが一般的です。
代表的なM855(SS109)弾は62グレインの弾頭を使用し、銃口初速はおおよそ920〜930m/s、マズルエナジー(銃口エネルギー)は約1,700ジュール(≒1,250 ft-lbf)に達します。
5.56 NATO弾の主な特徴は以下のとおりです。
5.56 NATO弾の採用は、「より軽く、コントロールしやすく、兵士1人あたりの携行弾数を増やせる弾薬」という要請に基づいて進められました。
現在では、ライフルのみならず軽機関銃にも用いられ、世界中の軍隊で主力弾薬の一つとなっています。
M193とM855(SS109)の違い

5.56 NATO弾には複数のバリエーションがありますが、主に「M193」と「M855(SS109)」の2つの弾薬が代表的です。
両者は構造、弾道性能、用途において明確な違いがあります。
項目 | M193 | M855 (SS109) |
---|---|---|
弾頭重量 | 55グレイン | 62グレイン |
コア/構造 | フルメタルジャケット(鉛) | スチール貫通体 + 鉛(複合構造) |
銃口初速 | 約3,215〜3,250 fps(20インチバレル) | 約3,060〜3,100 fps(20インチバレル) |
マズルエナジー | 約1,300 ft-lbf | 約1,700 ft-lbf |
適正ツイスト | 1:12など遅いツイスト | 1:9 または 1:7の高速ツイスト |
障害物貫通性 | 標準的:軟らかい標的に有効 | 良好:薄い鋼板、車体、軽装甲を貫通 |
終末効果 | 近距離で激しい破砕、広い創傷を形成 | 破砕効果はやや控えめ、短距離では貫通傾向 |
長距離性能 | エネルギー減衰が早く、精度もやや低下 | 長距離でのエネルギー保持と貫通力に優れる |
使用背景 | 初期型M16で標準採用、軽量で反動が小さい | 1980年にNATO標準化、軽装甲・ヘルメット対策 |
民間用途での制限 | 一般的な使用に制限なし | スチールコアのため一部射撃場で使用制限あり |
呼称・識別 | 米国における旧標準弾 | 欧州ではSS109、米国ではM855(グリーンチップ) |
総評 | 破壊力と価格に優れ、近距離戦に適する | 遮蔽物越しの戦闘や長距離精度を重視する用途向け |
SS109とM855の違い
SS109はベルギーのFN社が開発し、1980年にNATOで標準化された欧州製の弾薬です。
一方、M855は米軍が1980年代初頭に採用した軍用バージョンです。
どちらも62グレインの弾頭(鉛芯+鋼鉄製ペネトレーター)を使用する5.56 NATO弾で、遮蔽物に対する貫通力が高められています。
M855の弾頭は、鋼芯を銅ジャケットで覆っており、これにより障害物貫通性能が若干向上している可能性があります。両者とも、1:7または1:9のツイストレートの銃身が必要です。初速や貫通力、終末効果はほぼ同等であり、M855は弾頭先端が緑色に塗られていることから「グリーンチップ弾」として知られています。
米国製M855は製造公差がわずかに厳しく設定されており、理論上はSS109よりも精度が高い可能性もありますが、実用上の差はほとんどありません。いずれも鋼芯を含むため、民間使用には一部制限がかかる場合があります。
SS109とM855は実質的に同じ5.56 NATO弾であり、主な違いは生産国、製造基準、弾頭構造のわずかな違いによるものです。性能差はほとんどありません。
M855とM855A1の違い

M855A1は、従来のM855(いわゆるグリーンチップ)を大幅に改良した、5.56 NATO弾の発展型です。
項目 | M855 | M855A1 |
---|---|---|
弾頭タイプ | FMJ(フルメタルジャケット) | EPR(環境配慮弾) |
弾頭重量 | 62グレイン | 62グレイン |
弾頭構造 | 鉛コア+スチール貫通体 | 銅コア+大型スチール貫通体(部分露出) |
銃口初速 | 約3,060 fps | 約3,110 fps以上 |
マズルエナジー | 約1,289 ft-lbf | 約1,330 ft-lbf |
貫通性能 | 中程度(軽装甲に対応) | 優秀(鋼板・ボディアーマーを貫通) |
終末効果 | 破砕効果はやや控えめ | 着弾時のヨーと破砕が安定し、大きな組織損傷を与える |
環境対応 | 鉛を含む | 鉛フリー(環境配慮型) |
薬室腔圧 | 約55,000 psi | 約61,000 psi以上 |
銃器への影響 | 通常の摩耗・寿命 | 摩耗が増加し、銃身寿命は短くなる傾向あり |
運用コスト | 比較的安価 | 製造コストが高い |
互換性の注意点|5.56mmの銃に.223弾は使えるか?

弾薬 | 薬室 | 危険度 |
---|---|---|
.223レミントン | .223レミントン | 安全 |
5.56 NATO | 5.56 NATO | 安全 |
.223レミントン | 5.56 NATO | 安全だが精度に問題 |
5.56 NATO | .223レミントン | 危険 |
.223レミントン弾を5.56 NATO規格の薬室を持つライフルで使用する場合、この組み合わせは基本的に安全とされています。
5.56 NATOの薬室は、.223弾よりも高い圧力に耐えるよう設計されており、かつリード(弾頭がライフリングに達するまでの空間)も長めに確保されているため、.223弾を装填しても過剰な圧力がかかることはほとんどありません。そのため、日常的な射撃用途であれば、.223弾を使用しても特に問題はありません。
ただし、銃身長が非常に短いライフル(たとえば10インチ以下)では、ガス圧の不足により作動不良が起こることがあり、稀に排莢や装填が不安定になるケースも報告されています。
また、命中精度が低下しやすい傾向があります。
一方で、5.56 NATO弾を.223レミントンの薬室で発射することは、非常に危険です。
.223の薬室は、もともと民間向けに設計された規格であり、軍用の5.56mm弾と比べてリードが短く、耐圧設計も低くなっています。そのため、高圧の5.56mm弾を.223の薬室に装填して発射すると、薬室内で過剰な圧力が発生しやすく、65,000 psi以上の危険な圧力に達することがあります。
圧力規格の違いに注意
弾薬ごとの最大腔圧には明確な差があります。
軍用弾であるM193、M855、M855A1は、NATOのEPVAT規格に基づき6万psiを超える高圧で設計されており、民間規格(SAAMI)に基づく.223レミントン(最大55,000psi)とは異なります。
以下は主な弾薬ごとの最大腔圧の比較です:
弾薬種 | 最大腔圧(psi) | 測定規格 |
---|---|---|
.223レミントン | 55,000 | SAAMI(米国民間規格) |
M193 | 55,000 | SAAMI(米国民間規格) |
M193 | 62,366 | NATO EPVAT |
M855 | 55,000~58,000 | SAAMI(米国民間規格) |
M855 | 62,366 | NATO EPVAT |
M855A1 | 61,000~62,000超 | NATO/米軍基準 |
【補足解説】
弾薬が発生させる圧力は非常に高圧です。
どれぐらい高圧かは、以下を比較するとわかりやすいでしょう。
比較対象 | 圧力(psi) |
---|---|
車のタイヤの空気圧 | 約30〜35 psi |
炭酸飲料のペットボトル | 約40〜50 psi |
エアソフトガン | 約109 psi |
消防ホースの水圧 | 約100〜300 psi |
家庭用高圧洗浄機 | 約100〜2,000 psi |
水深1万メートルの水圧 | 約14,500 psi |
.44マグナム | 36,000 psi |
.223レミントン | 55,000 psi |
12.7×99mm NATO(.50BMG) | 60,481 psi |
M855A1 | 61,000~62,000+ psi |
購入時に確認すべき刻印と注意点

ライフルを購入する際や弾薬を選ぶ際には、必ず以下の刻印を確認してください。
不明な場合は、必ず製造元に確認するか、専門家に相談してください。
.308 winと7.62mm NATOの違い

本題から外れますが、.308ウィンチェスター(.308 win)弾と7.62×51mm NATO(7.62 NATO)弾も外見が非常によく似ているため、この違いについても簡単に触れておきます。
.223レミントンと5.56 NATOの例から「NATO弾の方が高圧」という誤った覚え方は危険です。
.308 winと7.62 NATOを比較すると、民間の.308 winの方が高圧のため注意が必要です。
項目 | .308ウィンチェスター | 7.62 NATO |
---|---|---|
最大腔圧 | 約62,000 psi | 約60,000 psi |
薬室長 | やや短くタイト | 約0.006〜0.010インチ長い |
薬莢厚さ | 薄め(容量やや多い) | 厚め(容量やや少ない) |
弾薬の種類 | 狩猟・スポーツ向けの種類が豊富 | 軍用規格中心で種類は少ない |
用途 | 民間用(狩猟・スポーツ射撃) | 軍用(信頼性・耐久性重視) |
使用銃 | .308仕様のライフル | 7.62 NATO仕様の軍用小銃や機関銃 |
まとめ
.223レミントン弾と5.56 NATO弾は、外見はほぼ同じですが、技術的な仕様や用途が異なる弾薬です。
ライフルや弾薬を選ぶ際は、銃身に刻印された規格(5.56 NATO、.223 Remington、.223 Wyldeなど)を必ず確認し、適切な弾薬を使用することが重要です。