PR

700 ニトロエクスプレス弾の威力と歴史:象狩猟用超大口径弾の全貌

画像出典:extremolitoral.com.ar
画像出典:extremolitoral.com.ar

700 ニトロエクスプレス弾は、ホーランド&ホーランド社が開発した世界最大級の市販ライフル弾薬です。

象などの危険な大型獣狩猟を目的に設計され、圧倒的な反動と高額な価格で知られています。

この記事では、その性能、歴史、種類を解説します。

ニトロエクスプレスとは?

.700ニトロエクスプレス画像
.700ニトロエクスプレス

ニトロエクスプレス(Nitro Express)は、19世紀末から20世紀初頭にかけて登場した大口径狩猟銃用弾薬の総称であり、従来の黒色火薬弾薬をコルダイトで改良したことに由来します。

コルダイト(Cordite)は、1889年に英国で開発された無煙火薬系の推進薬で、黒色火薬の代替として軍用火器に広く使用されました。主成分はニトロセルロースとニトログリセリンで、弾丸や砲弾を発射するための高圧ガスを生成しますが、爆薬のように爆轟せず燃焼(爆燃)するのが特徴です。

コルダイト画像
.303ブリティッシュとコルダイト 画像出典:Forrest H. Barfield, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
  • 小火器(例:.303ブリティッシュ弾)から大砲、戦車砲、艦砲まで幅広く使用。
  • 第二次世界大戦では対空ロケットや、射出座席用ロケットにも応用。
  • 1945年の原子爆弾「リトルボーイ」の起爆システムにも使用された。
時期成分特徴
初期型(Mk I)ニトログリセリン58%
ニトロセルロース37%
石油ゼリー5%
高圧ガス生成
爆燃特性
後期型(Cordite MDなど)配合調整銃身摩耗・マズルフラッシュ軽減
WWII期(トリプルベース)ニトロセルロース
ニトログリセリン
ニトログアニジン
同上

1856年に銃職人であるジェームズ・パーディーが「エクスプレス」という言葉を列車の速さになぞらえて弾速を宣伝したことが始まりで、その後「ニトロ」が加わり完成しました。

1898年にジョン・リグビー社が発表した.450 ニトロエクスプレスは、アフリカやインドの大型危険獣(デンジャラスゲーム)を仕留めるのに十分な威力を持ち、初期の排莢不良を克服した後は広く普及しました。この成功を受けて各社が既存の黒色火薬弾を改良し、.500や.577、さらに1903年の.600 ニトロエクスプレスなど、より強力な弾薬が登場しましたが、銃が重いため専門のプロハンター向けに限られました。

狩猟における「デンジャラスゲーム(Dangerous Game / 危険獣)」とは、人間に対して重大な危険を及ぼす可能性のある大型野生動物を指す用語です。特にアフリカやアジアの狩猟文化で使われることが多く、以下の特徴があります:

  • ライオン、ヒョウ、アフリカゾウ、バッファロー、サイなど、人間を攻撃する力や習性を持つ大型獣。
  • シカなど比較的安全に狩猟できる「プレーンゲーム(Plain Game)」と区別される。

一方で、1907年にはイギリス軍がインドや東アフリカへの.450口径銃と弾薬の輸入を禁止しました。これは反英勢力が使用していた.577/450マルティニ・ヘンリー銃に弾頭を流用されることを恐れたためで、この規制を受けてホーランド&ホーランドの.500/465 ニトロエクスプレスやジョセフ・ラングの.470 ニトロエクスプレスなど代替弾薬が開発され、特に.470が最も普及しました。

また、リグビー社がマウザー社と協力して開発したマグナムレングスボルトアクションは、後の.375 H&Hや.416 Rigbyといった大口径弾薬の基盤となり、ニトロエクスプレスの名称はリムレスカートリッジにも広がっていきました。

リムレスカートリッジとは、薬莢の底部(リム)が本体径とほぼ同じ幅で突出していない構造を持つ弾薬です。

薬室内では薬莢の肩や口で位置決めされ、自動拳銃や自動小銃などの自動装填式火器に適しています。給弾や排莢がスムーズで作動不良が少ないため、現代の軍用・民間用弾薬の主流となっています。

.600 ニトロエクスプレス

.600ニトロエクスプレス(.600NE)は、イギリスの銃器メーカーW.J. Jeffery & Co.が1900年頃に開発した大口径ライフル弾で、象などの超大型獣を狩猟するために設計された弾薬です。

銃の画像
画像出典:Wikipedia

弾頭直径約15.7mmで、通常900グレイン(約58グラム)を使用し、初速は560〜620m/sに達し、発射エネルギーは9,000ジュールを超える非常に強力な性能を持っています。そのため、使用するライフルは反動を制御するために重量が大きく、約7kgを超えるものも存在しました。

この弾薬は、当時の象猟においてバックアップウェポンとして重要な役割を果たしました。象の心臓や肺を狙えない状況では、頭部や肩を撃ち抜く必要があり、その際に.600ニトロエクスプレスの威力が活かされました。著名なハンターであるジョン・テイラーはこの弾薬を愛用し、60〜70頭の象を仕留めたと記録されています。

第一次世界大戦では、ドイツ軍狙撃兵が鋼板を盾にして英軍を苦しめたため、イギリス陸軍は通常の.303弾では貫通できない状況を打破する目的で大型狩猟銃を導入しました。その中には4丁の.600 ニトロエクスプレスライフルも含まれ、鋼板を容易に貫通する性能を示しました。狙撃将校の証言によれば、伏射姿勢で撃った兵士が鎖骨を折るほどの反動を伴いましたが、立射や膝射では有効に運用できたとされています。

派生型として、1929年にホーランド&ホーランドが.600ニトロエクスプレスをネックダウン(縮径)して.582口径弾を収めた.600/577 Rewaを開発しました。また、ヴィッカース.50機関銃の初期弾薬も.600 ニトロエクスプレスを基に設計されました。1988年に.700 ニトロエクスプレスが登場するまで、商業的に入手可能な弾薬としては世界最強の威力を誇っていました。

アメリカでは、口径が12.7mmを超えるライフルは国家火器法(NFA)により「破壊的装置(DD)」と分類され、購入には輸入許可申請、破壊的装置輸入業者の連邦火器免許、登録申請、200ドルの税印、指紋や写真提出、バックグラウンドチェック(犯罪歴調査)など複雑な手続きが必要ですが、狩猟用の場合は除外されます。

アメリカの銃規制法における「破壊的装置(Destructive Device, DD)」とは、国家火器法(NFA)などで特別に規制される兵器の区分です。爆弾や手榴弾、ロケット、地雷などの爆発物に加え、口径が0.50インチ(12.7mm)を超えスポーツ用途に適さない大口径火器が含まれます。ただし、スポーツ用ショットガンや狩猟用大口径銃(合法的用途が認められる場合)、信号用ロケット、花火などは除外されます。

エンタメでは、映画『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997年)でローランド・テンボが使用する銃として登場しています。

.700 ニトロエクスプレス

.700 ニトロエクスプレス(.700NE)は1988年にイギリスの銃器メーカー、ホーランド&ホーランドによって開発された超大口径ライフル弾で、現代においても最も強力な狩猟用弾薬の一つとして知られています。

銃の画像
画像出典:Wikipedia

設計者はジム・ベルとウィリアム・フェルドスタインで、彼らが新規に設計したこの弾薬は、従来のケースを拡張したものではなく完全に新しい設計に基づいています。弾頭直径は17.8mm、重量は約1000グレイン(65グラム)に達し、秒速約610m、初速にして約2000 fps(フィート毎秒)を記録し、マズルエナジーは約12,000ジュールに達します。これは従来の大口径弾薬を凌駕する性能であり、反動も極めて強烈です。

項目.600 Nitro Express.700 Nitro Express
開発年1900年頃1988年
弾頭直径15.7 mm17.8 mm
弾頭重量900 gr(58 g)1000 gr(65 g)
初速560~620 m/s
1,873~2,034 fps
610 m/s
2000 fps
マズルエナジー9,270~11,400 J
6,840~8,410 ft-lbf
工場装弾:
12,100 J
8,920 ft-lbf
ハンドロード:
最大20,000 J
最大14,750 ft-lbf
備考象猟用
重量7kg超の銃
世界最大級
希少(2024年時点で18丁)

この弾薬は、フェルドスタインが当初ホーランド&ホーランドに.600 ニトロエクスプレスの製造を依頼したものの既に生産終了していたため、ベルと協力して新たに設計された経緯があります。完成後はホーランド&ホーランドが製造を引き受け、1988年に正式に市場へ投入されました。発売直後から注文が殺到し、2007年まで予約注文が続いたほどで、その需要に応えるためにホーランド&ホーランドは一時的に.600 ニトロエクスプレスの製造も再開しました。

.700 ニトロエクスプレスを使用するライフルは非常に高価で、1990年時点で約11万5千ドル、2022年には40万ドルにまで価格が上昇しました。単発の装弾でも1発あたり約100ドルに達し、弾薬そのものも贅沢品といえます。ホーランド&ホーランドが製造したライフルは2022年時点でわずか17丁に過ぎず、2024年に18丁目が完成したと記録されています。つまり、この弾薬は極めて希少です。

年代ライフル価格弾薬価格(1発)備考
1990年約115,000ドル約100ドル発売直後
2007年不明不明予約注文が続く
2022年約400,000ドル40~100ドル製造数わずか17丁
2024年不明不明18丁目完成

弾道性能に関しては、標準的なファクトリーロード(工場装弾)で約8,900 ft-lbf(12,100ジュール)のエネルギーを発揮しますが、ハンドロードによっては現代的なボルトアクションで最大15,000 ft-lbf(20,000ジュール)に達することも可能です。ただしその場合、設計上銃自体が極端に重くなり、狩猟用途ではほとんど実用的ではありません。

反動は特に強烈で、18ポンド(約8.2kg)のライフルで発射した場合、約220ジュールの反動エネルギーが発生し、これは一般的な.308ウィンチェスターの10倍以上、.30-06スプリングフィールドの8倍、.375 H&Hマグナムの4倍に相当します。従来最強とされた.460ウェザビー・マグナムの約2倍の反動を持ち、「射手の心臓が一瞬止まるような衝撃を与える」と形容されるほどです。

弾薬名反動エネルギー相対比較
.308 Winchester約20 J基準
.30-06 Springfield約23~27 J1.3倍
.375 H&H Magnum約55 J2.7倍
.460 Weatherby Magnum約135~150 J6~7倍
.700 Nitro Express約220~300 J.308の10倍以上

ニトロエクスプレス弾の種類一覧

  • .240 Belted Nitro Express (.240 Apex)
    • 1919年頃にホーランド&ホーランドが開発したリムレス狩猟弾で、シカやプレーンズゲーム用。.240 Apex(別名 .240 Magnum Rimless H&H)は100グレイン弾を約2,900fpsで発射し、性能は.243ウィンチェスターに近い。ベルト付きは特定のライフル用に設計されたが性能は同等。ボルトアクション用で高圧ハンドロードにも適性がある。
  • .240 Flanged Nitro Express
    • .240 ニトロエクスプレスのリム付き(フランジ型)派生弾で、主にブレークアクションやコンビネーションガン用。性能はリムレスと同等だが、異なる銃機構向けに設計。
  • .242 Rimless Nitro Express
    • 別名 .242 Vickers や .242 Manton。1923年にKynochが開発したリムレスボトルネック弾。100グレイン弾を約2,800fpsで発射し、性能は.243ウィンチェスターに近いが薬莢は長い。
  • .26 Rimless Nitro Express
    • 別名 .26 Rimless Nitro-Express または 26 BSA。1920年代にボルトアクション用として開発された6.5mm弾。人気は限定的で、ベルト付きリムレス薬莢を基に設計。
  • .280 Flanged Nitro Express
    • 別名 .280 Lancaster。チャールズ・ランカスターが開発したリム付きボトルネック弾で、ダブルライフル用。現在は廃止。
  • .280 Jeffery Rimless Nitro Express
    • 別名 .33/280 Jeffery。リムレスボトルネック弾で、中口径ライフルに用いられ、大型獣狩猟に使用。
  • .303 British Rimmed Nitro Express
    • 有名な.303ブリティッシュはリム付きボトルネック弾で、英国および英連邦軍で広く使用された。口径は約7.7mm。初期は黒色火薬、後に無煙火薬を使用。軍用ではほぼ廃止されたが、歴史的・スポーツ用途では人気が続く。
  • .318 Rimless Nitro Express (Westley Richards .318)
    • ウェストリー・リチャーズが開発した中口径リムレスボトルネック弾。マウザーやエンフィールド銃で使用され、中〜大型獣に有効。
  • .333 Rimless / .333 Flanged Nitro Express
    • ジェフリー社の.333シリーズはリムレスとリム付きがあり、中〜大型危険獣狩猟に適し、高速・高エネルギーを持つ。
  • .350 Rigby Nitro Express
    • リグビー社が開発した大型獣用弾。危険獣狩猟ライフルに使用。
  • .400/350 Nitro Express / .400/360 Nitro Express
    • 中〜大口径のニトロエクスプレス弾で、大型獣狩猟用。リム付き・リムレス両方が存在し、銃種に応じて設計。
  • .360 Nitro Express / .360 No 2 Nitro Express
    • 20世紀初頭に人気を博した中口径弾。狩猟用に広く使用。
  • .369 Nitro Express
    • 大型獣狩猟用に設計されたニトロエクスプレス弾。
  • .375 Belted Rimless / .375 Flanged Nitro Express
    • .375 H&H Magnum は代表的なベルト付きリムレス弾で、危険獣狩猟に今も人気。強力さと反動のバランスが良い。フランジ型はブレークアクション用として先行して登場。
  • .400/375 Belted Nitro Express / .400 Jeffery Nitro Express
    • 大型獣用の大口径弾。前者はマガジンライフル用、後者はダブルライフル用。
  • .450/400 Nitro Express 系(.450 No 2, .500/450, .500/465)
    • ニトロエクスプレス系の代表的な大口径弾で、ダブルライフルやボルトアクションに用いられ、危険獣狩猟に設計。
  • .470 / .475 / .476 Nitro Express
    • 大口径ニトロエクスプレス弾の代表格で、ダブルライフル用に開発された強力弾。
  • .500 Nitro Express / .500 Jeffery Nitro Express
    • ニトロエクスプレス系最大級の弾薬で、危険獣に対する強力なストッピングパワーを持つ。
  • .505 Rimless Nitro Express
    • マガジンライフル用の強力大口径弾。
  • .577/.500, .577, .600/.577 Rewa, .600 Nitro Express
    • 20世紀初頭にアフリカやインドの危険獣狩猟用として開発された超大口径弾。圧倒的な威力で知られる。
  • .700シリーズ(Rafiki, Sahar, .700 Nitro Express)
    • ニトロエクスプレス系最大級の弾薬群。特注や限定生産が多く、最大級の危険獣に対するストッピングパワーを持つ。

.700NE VS .50BMG VS .700BMG

.700エクスプレス弾を現代の軍用対物ライフルで使用される.50BMG弾と比較します。

結論としては、.50BMGの方が強力かつ高性能です。

.50BMG、.700ニトロエクスプレス、.700BMGイメージ画像
.50BMG(左).700NE(中央).700BMG(右)

.700エクスプレスと .50 BMG の最大の違いは、用途、弾頭の大きさ、そして威力の特性にあります。.700エクスプレスはもともと象などの危険獣狩猟を目的として設計された大口径ライフル弾で、0.700インチ(70口径)、重量約1,000グレインの弾頭を発射します。

初速はおよそ2,000 fps、マズルエナジーは約8,900 ft-lbfに達し、発射時には200ポンド(約91kg)近い非常に強烈な反動を伴います。この弾薬は高価で重量のあるダブルライフルや、特別に設計されたボルトアクションライフルに使用されることが多いです。

バレットM107A1画像
バレットM107A1 画像出典:barrett.net

一方、.50 BMG(ブローニングマシンガン)は軍用および長距離狙撃用に開発された弾薬で、口径0.50インチ(12.7mm)、重量650〜750グレインの弾頭を約2,900 fpsという高速度で発射します。

マズルエナジーと初速は.700ニトロエクスプレスを上回ることが多く、主に対物ライフルや重機関銃に用いられます。口径は小さいものの、弾道性能においてはより強力とされています。

さらに両者を組み合わせたハイブリッド弾薬(ワイルドキャットカートリッジ)として「700 BMG」が存在します。.50 BMGの薬莢を拡張して.700口径の弾頭を収めたもので、1,000グレインの大弾頭を2,000 fps以上で発射します。

これらの違いは、それぞれの専門的な役割を反映しており、.700ニトロエクスプレスは大型獣狩猟、.50 BMGは軍事・戦術用途、700BMGは両者を融合した特殊な娯楽用弾薬といえます。

項目.50 BMG.700 Nitro Express700 BMG
(ハイブリッド)
用途軍用・対物危険獣狩猟特殊用途
口径.50インチ(12.7mm).700インチ
(17.8mm)
同左
弾頭重量660 gr1,000 gr同左
初速2,900 fps2,000 fps同左
マズルエナジー12,328 ft-lbf8,884 ft-lbf同左
有効射程1,800~2,000 m90~135 m同左
主な使用銃対物ライフル
重機関銃
ダブルライフル
ボルトアクション
特注ライフル
  1. Wikipedia, .240 Apex
  2. Wikipedia, .242 Rimless Nitro Express
  3. Royal Armouries, British Cartridge Cases Collection
  4. Ammunition Artifacts, British Cartridge Cases: .240 Apex Belted Rimless
  5. Naboje.org, Cartridge Database
  6. Weatherby Nation Forum, Cartridge Discussions
  7. XXL Reloading, .240 Flanged Nitro Express
  8. NRA Museum, Modern Firearms Gallery – Birmingham Small Arms Model 1922 Sporter Rifle
  9. Wikipedia, .280 Flanged
  10. Wikipedia, .280 Jeffery
  11. Wikipedia, .303 British
  12. Wikipedia, .318 Westley Richards
  13. Weatherby.dk, The .240 Weatherby Magnum
  14. XXL Reloading, Caliber Load Data: .240 Flanged Nitro Express
  15. NitroExpress.com Forum, Historical Cartridge Discussions
  16. Weatherby Nation Forum, Cartridge Information
  17. Naboje.org, Cartridge Database: .280 Jeffery
  18. Bulletmatch, Cartridge Ballistics Database: .280 Jeffery Rimless Nitro Express
  19. American Hunter, Behind the Bullet: .303 British
  20. Cogunsales, Kynoch .318 Westley Richards Ammunition
  21. その他、多数の資料