
ワンホール(ワンホール・グループ / one hole group)とは、初弾と次弾の着弾が重なり、1つの穴に見える状態を指します。
この用語は映画やゲームに登場することもありますが、どこまでを「ワンホール」と定義するのかには議論があります。
本記事では、ワンホールの定義、射撃競技における判定の違い、MOA(Minute of Angle)による精度の基準、集弾の計測方法、そして「メタルギアソリッド3」の1911ピストルが本当にワンホールを実現できるのか?など、詳しく解説します。
実銃の命中精度に興味がある方や、ワンホールについて知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
ワンホールの定義

ワンホール(ワンホール・グループ)は、2発以上が命中し、ターゲットに弾痕が1つだけ残る状態を指します。
先に結論を述べると、ワンホールには定義がなく、実際にはさまざまな解釈があります。
ある人は「弾頭直径の1.5倍未満の穴」と言い、ある人は「1発だけが貫通したように見える穴」と言います。
私の個人的な解釈は後者ですが、どちらが正しいということはありません。
GSSFとIDPAにおける判定の違い
ある射手の体験談によると、2つの射撃競技(GSSFとIDPA)で発射数と弾痕の数が合わなかったことがあり、判定が異なったとのことです。
この事例では、GSSF(Glock Sport Shooting Foundation)で「命中」と判断され、ワンホールと判定されました。
一方、IDPA(International Defensive Pistol Association)ではミス(命中せず)と判定されました。
弾痕が1つしか確認できない場合、ダブルヒット(2発命中)であることをセイフティオフィサー(SO/安全担当者)が明確に確認できない限り、ミスとして扱われることもあります。
採点に疑義がある場合、オーバーレイ(採点用具)を使用して弾痕をチェックするべきですが、判定にはSOの主観が入ることもあります。
参考までに、IDPAのルールブック(2025年版)には以下のように記載されています。
When a Safety Officer has a reasonable doubt on a scoring call (including penalties) the SO will award the better score to the shooter. This also applies to possible doubles. However, this does not automatically mean that every miss is a double.
セイフティオフィサーが採点(ペナルティを含む)に関して合理的な疑問を持った場合、射手にとって有利なスコアを与えるものとする。これは、ダブル(2発着弾で1つの弾痕)の可能性がある場合にも適用される。ただし、すべてのミスが自動的にダブルと見なされるわけではない。
2025 IDPA Rulebook Master
項目 | GSSF (Glock Sport Shooting Foundation) | IDPA (International Defensive Pistol Association) |
---|---|---|
目的 | Glockユーザー向けの競技 | ディフェンスシナリオを想定した競技 |
競技スタイル | 静的な射撃 (その場で撃つ) | 動的な射撃 (移動・カバー利用あり) |
使用銃 | Glockピストル限定 | 多様な銃種 (ピストル、リボルバー、PCC) |
許可される改造 | 最小限の改造のみ許可 | 部門ごとに異なるが、より多くの改造が可能 |
競技ステージ | 3ステージ (1つはスチールプレート) | ディフェンスシナリオを模した多様なステージ |
射撃姿勢 | ローレディポジション (銃を持った状態から射撃) | ホルスターからの抜き撃ち |
ターゲット | 静的ターゲット | 動的・戦術的なターゲット配置 |
安全ルール | 一般的な競技射撃のルール | カバー使用やリロードの制約が厳格 |
賞品・報酬 | Glockピストルなどの賞品あり | 名誉、スキル向上、競技ポイントなど |
対象層 | 初心者から上級者まで | タクティカルトレーニングを求める射手や護身目的の射手 |
参考:https://forums.brianenos.com/topic/296261-two-bullets-one-hole/
オーバーレイとは?

スコアリング・オーバーレイとは、ダブルヒットを確認するための半透明のカードです。
弾痕の上にカードを重ねたとき、オーバーレイに印刷された弾頭直径の円よりもわずかに大きな弾痕に見えるとします。
この場合、もう1枚のオーバーレイ(計2枚)を重ねると、1つの弾痕に2発が着弾していることが確認できます。
しかし、1つの弾痕に寸分の狂いもなく同じ位置に2発が着弾している場合は判別できません。
オーバーレイは、わずかなズレを確認しやすくする目的で使用されます。
他にも棒状のゲージを弾痕に挿し込んで深さを計測するタイプも存在しますが、いずれにしても2発の着弾箇所が全く同じ場合は確実な判別ができません。
ワンホールの判別が難しい理由
ワンホールには、「どれぐらいの誤差までをワンホールと定義するのか?」という問題があります。

この画像は、私が25ヤード(約23m)の距離でベレッタ92FSピストルを射撃した際のターゲットです。
穴の形状を見ると、「外周の凹み」と「破れ」が確認できます。

弾頭先端に丸みがあるラウンドノーズのフルメタルジャケット弾(FMJ)を使用しているため、このような弾痕形状になります。
着弾時、弾頭先端の狭い接触面が紙面を丸く切り取るようにして破ります。そして、弾頭外周と接触する部分が弾の進行方向へ折れ曲がり、結果として弾頭直径よりも小さい穴が形成されます。
仮に2発の弾が1つの穴を通過したとき、どこまでの誤差なら1つの穴に見えるでしょうか?
次弾が初弾より多少ずれても、初弾によって曲げられた部分に次弾が接触した場合、一見すると1つの穴に見えるため判別が難しくなります。
ワッドカッター弾は判別が容易

一方、ワッドカッターを使用すれば判別が容易になります。
ワッドカッターとは、先端が平らな円柱状の弾頭で、紙のターゲットに対して綺麗な丸い穴を開け、着弾箇所の視認性が向上します。
ワッドカッターを使用した場合では、次弾が初弾より少しずれただけでも2発通過を確認しやすくなります。

私がワッドカッターを実射していた際、「衣類を撃ったらどうなるんだろう?」という素朴な疑問があり、実際に.38SPLのワッドカッターでシャツとジーパンを撃ってみました。結果は丸い穴が開かず、衣服の繊維に沿って縦方向に1~2cm裂けました。裂け目には円形の接触痕が残りましたが、衣類に円形の穴を開けるには弾速が不足していると思われます。
ワンホールは狙って実現可能?
実際、ワンホールは狙って実現可能なのでしょうか?
これを解説する前に、銃の命中精度を理解するうえで知っておきたい、「MOA」と「集弾(グルーピング)の計測方法」を解説します。
MOAとは?

MOA(Minute of Angle)とは、射撃や光学機器で使われる角度の単位で、1MOAは1分角(1/60度)を意味します。
1MOAは、距離100ヤードで1.047インチの大きさになります。
・・・ですが、通常は100ヤードで1インチとみなして問題ありません。
ただし、ライフルで長距離射撃を行う場合に限っては、少しの誤差が無視できない差になるため、厳密に「100ヤードで1.047インチ」として計算するのが望ましいです。
例えば、ピストルで距離25ヤードを射撃し、直径4.5 cm(約1.77インチ)に集弾した場合、約7MOAと計算できます。
MOA = 集弾 ÷ 距離 x 100
1.77 ÷ 25 x 100 = 7.08
また、ライフルを使用し、距離1000ヤード(約914 m)の長距離で10 cm(約3.94インチ)以内に命中させたい場合は、約0.376MOAの集弾性能が必要になります。
MOA = 集弾 ÷ (距離 x 1.047) x 100
3.94 ÷ 1047 × 100 = 0.376
以下は、1MOAの距離と大きさの関係です。
距離 (ヤード) | インチ (通常運用) | インチ (長距離射撃) | センチメートル (cm) |
---|---|---|---|
25 | 0.25 | 0.262 | 0.665 |
50 | 0.5 | 0.524 | 1.33 |
100 | 1 | 1.047 | 2.66 |
200 | 2 | 2.094 | 5.32 |
300 | 3 | 3.141 | 7.98 |
400 | 4 | 4.188 | 10.63 |
500 | 5 | 5.235 | 13.29 |
600 | 6 | 6.282 | 15.95 |
700 | 7 | 7.329 | 18.61 |
800 | 8 | 8.376 | 21.26 |
900 | 9 | 9.423 | 23.92 |
1000 | 10 | 10.470 | 26.58 |
MOAとミルの比較
シューターズMOA(SMOA)またはIPHY
MOAによるライフルの性能評価
MOAとミルの換算
集弾(グルーピング)の計測方法
集弾(グルーピング)とは、着弾箇所がどれだけ集まっているかを表す指標です。
集弾を計測するには、集まっている着弾箇所のなかで最も遠い2つの弾痕の間を計測します(フライヤー※を除く)。
フライヤーとは、通常の集弾パターンから外れた、特に遠く離れた弾痕を指します。フライヤーは以下のような理由で発生することがあります:
集弾の計測でフライヤーは無視します。

上図は3発の弾痕を表しており、穴の周囲に弾頭の接触痕があります。
この集弾を計測する方法は、以下の3通りがあります。
最も正確に計測可能なのは2番のCTCで、口径に依存しないため異なる口径を使用しても計測可能です。また、PC上で計測用ソフトを使った計測も行われます。
しかし、ノギスを使用して計測する場合は、3番の方法が最も目視が容易で計測しやすいといえます。
MGS3の1911は本当にワンホールを狙える?

ゲーム「メタルギアソリッド3」内で次のセリフがあります。
全て熟練した職人の仕事だ。レストマシンでの射撃なら25ヤード、ワンホールも狙えるに違いない。
このセリフは、カスタムされたM1911A1ピストルを説明するシーンで登場しました。
果たしてレストマシン(固定器具)から発射した1911ピストルは、ワンホールを狙えるのでしょうか?
先述の通り、ワンホールには定義がないため、仮に距離25ヤードで0.2インチ(5.08 mm)以内の集弾(CTC)を「ワンホール」と定義したいと思います。

このワンホールは、楕円のような形状です。
この場合、MOAに換算すると次のようになります。
MOA = 集弾 ÷ 距離 x 100
0.2 ÷ 25 x 100 = 0.8
このように計算すると、ワンホールには0.8MOAが必要となります。
私が知る限り、1911ピストルで0.8MOAの集弾性能を持つものは存在しません。
1911A1がアメリカ軍に採用された当時の要求スペックは、25ヤードで5インチ(20MOA)以内の集弾でした。
一般的に現代の1911ピストルは、ノーマルで10~16MOA、カスタムモデルで3~10MOAほどです。
25ヤードで2~4インチ(約5~10 cm)の集弾は妥当なレベルといえます。
※以下の比較は目安です。
1911ピストルのモデル | MOA |
---|---|
Accuracy X – X Series Longslide 1911 | 約3MOA |
Dan Wesson PM-45 | 約4MOA |
Wilson Combat CQB Lightrail | 約4MOA |
Les Baer Premier II | 約5~7MOA |
GlockやSIG P320などのピストルでは、8~16MOAが一般的です。
リボルバーのなかでも命中精度が高いコルトパイソンは、約4~6MOAです。
仮に2MOAの1911ピストルが存在したとしても、これは25ヤードで約1.3 cmの集弾であり、ワンホールとは言えないでしょう。
ちなみに、ライフルのベンチレスト・シューティング競技では、0.1MOA以下で競われ、世界記録の一つは0.06MOA台です。
ライフルであれば、0.8MOAは達成可能な範囲です。

私は1911ピストル(Kimber Custom II)を愛用し、100ヤードも撃っていましたが、この距離では等身大の人間の大きさに当てるのがやっとでした。
メタルギアソリッド3で登場したM1911A1(スネークマッチ)のカスタム内容を簡潔にまとめると、以下のようになります。
高精度なハンドガンの実用性が低くなる理由

銃の命中精度は大きく分けて2つあり、「機械的精度(メカニカル・アキュラシー)」と「実用的精度(プラクティカル・アキュラシー)」に分類できます。
ライフルは4点(肩、両手、頬)で支持されるのに対し、ハンドガンは2点(両手)のみで支持されるため、エルゴノミクスやトリガープルが命中精度に大きく影響します。
また、銃の性能以上に弾薬の性能が重要で、高い精度を求める場合は、各薬室ごとに最適な相性を持つ弾薬を選択する必要があります。
総じて、銃がどれだけ高性能であっても、人間が正しく使いこなせなければ実際の命中精度は低くなります。
ハンドガンに過剰な精度は不要
一般的に「命中精度は高いほど良い」と考えられがちですが、高精度なハンドガンが必ずしも実用的ではありません。
例えば、1911ピストルが機械的に3MOAの命中精度を達成していても、ほとんどのユーザーは16~50MOA以上の射撃スキルしか持ち合わせていません。
8MOAの集弾を得られたらプロ並みの射撃スキルです。
NRA(全米ライフル協会)のインストラクター試験(レベルIV)には、.22口径ピストルを45ヤードで20発射撃し、16発以上を6インチ(15.24 cm)以内に命中させる条件があり、これは13.3MOAに相当します。
軍や法執行機関、民間での護身用として、「数センチの命中精度不足で銃撃戦に負けた」という事例がほとんど存在しないように、実際の現場で高精度なハンドガンは必要とされていません。
護身用が目的の場合、ストレス下で10ヤード(9 m)、10 cmの集弾(39MOA)があれば必要十分でしょう。
信頼性への影響
高精度を追及すると、製造時の公差が厳しくなり、作動不良を起こしやすくなります。
「メタルギアソリッド3」のカスタム例のように、スライドとフレームの隙間を埋めてタイトな構造にすると、強い衝撃を受けたときの変形や、砂などの異物が侵入した際に作動不良の原因となります。
高精度な競技用レースガンをクリーンな環境で使用する場合は、タイトな構造でも問題ありませんが、砂や泥を被る環境の軍用としては致命的です。
また、公差が小さいタイトな構造は潤滑不足によるトラブルを起こしやすいため、高精度を追及しすぎるのも問題となり得ます。
現代のピストルの多くは十分な精度が備わっている
現代の大手メーカーのピストルは16MOA以上の精度を持つモデルが多く、実用上十分な性能が備わっています。
しかし、市場ではマーケティングの影響もあり、カタログスペック上の高精度が求められる傾向があります。
扱う人間に機械的精度を引き出す射撃スキルが無いにもかかわらず、高スペックを求めた結果、製造コストが上昇し、価格に反映されます。
これは、「高精度=高評価」という一般的な評価方法が誤っている可能性があります。
重要なのは実用性
実戦では高精度を必要とせず、軍が要求するスペックをクリアするレベルの性能で十分といえます。
アメリカ軍に採用されたベレッタM9の精度は、50メートル(約55ヤード)の距離で10発射撃し、3インチ以内(6MOA)の集弾を記録しました。
また、新たに採用されたSIG M17は、25ヤードで2インチ(8MOA)以内の精度が備わっています。
実用として重要となるのは、作動の信頼性やメンテナンス性であり、高精度化によるコスト増や信頼性低下は、実戦での実用性を損なう可能性があります。