
この記事の要約
- 世界最速のライフル弾はワイルドキャット弾薬「.17 IN-IMP」で、初速約6,189fps(マッハ5.5)を記録。
- 実験的に.30-378ウェザビーマグナムが6,000fpsを達成したが、市販品では.220スウィフトが最速(約4,665fps)。
- NASAのライトガスガンはさらに高速で、宇宙デブリ試験用に最大11km/s(マッハ32)を実現している。
射撃の世界では、より速く、より正確に飛ぶライフル弾を求めて数多くの試みが行われてきました。その中でも「世界最速」という称号をめぐっては、数十年にわたり研究者や銃器メーカー、そして熱心な射撃愛好家たちの挑戦が続いています。
この記事では、記録上最速とされるワイルドキャット弾「.17 IN-IMP」から、伝説的な実験弾「.30-378ウェザビーマグナム」、そして市販弾薬の代表格「.220 Swift」まで、速度を追求したライフル弾の歴史と現状を整理しながら紹介していきます。
世界最速のライフル弾 .17 IN-IMP

世界最速のライフル弾薬として知られるのが、.17インシネレーター・インプルーブド(.17 Incinerator Improved / .17 IN-IMP)です。「Incinerator」は直訳すると「焼却炉」ですが、ここでは標的を焼き尽くすほどの速度と威力を比喩的に表現した名称です。
この弾薬は、.50 BMGケースを.17口径(4.37mm)にまで極端に絞り込んだワイルドキャット・カートリッジで、膨大な火薬量と特殊加工された弾頭を組み合わせることで、秒速約1,886メートル(6,189 fps)、マッハ5.5に迫る速度を実現しています。改良版の「インプルーブド」ではショルダー角を50度に拡張し、火薬容量をさらに増加させることで、驚異的な速度を安定的に達成しています。
- ワイルドキャット・カートリッジ(wildcat cartridge)
- 既存の弾薬を改造して作られる非公式・実験的なカートリッジの総称です。
- メーカーの標準規格ではなく、銃器愛好家や弾薬設計者が独自に開発する弾薬です。
- FPS (Feet Per Second)
- 弾速を「1秒間に何フィート進むか」で表す単位です。
- 例えば「1000 fps」なら、1秒で約305メートル進むことを意味します。
バーミントシューティングの分野では、弾速の向上によるフラットな弾道と強烈な打撃力が常に追求されてきました。.17インシネレーターはその究極形ともいえる存在で、重量33グレインの弾頭を用いることで、発射直後に音速の5倍以上という速度を達成し、100ヤード先でもなおマッハ5を維持する性能を誇ります。
- バーミント(varmint)
- 農作物や家畜に害を与える小〜中型動物の総称です。
- 代表例: コヨーテ、プレーリードッグ、アライグマ、ウッドチャック、ネズミ類など。
- バーミントシューティングの目的
- 農業被害の防止
- 個体数調整(資源管理)
- 精密射撃の練習(スポーツ)
ただし、この弾薬を使用するには通常の銃身では対応できず、ポリゴナルライフリングを施した1:20ツイストの銃身が必要です。また、ジャケット弾では発射直後に遠心力で空中分解してしまうため、必ずソリッド弾(単一素材の弾頭)を用いなければなりません。開発者ケント・ウィルソンによれば、この特殊な銃身構造こそが弾頭を安定させ、超高速でも形状を保つことを可能にしているといいます。
.30-378ウェザビーマグナムの伝説
1960年代、米軍は新型装甲板の耐久試験を行うために従来のライフル弾をはるかに超える超高速弾を必要としていました。その依頼を受けたのが「King of High Velocity(高速の王)」と呼ばれたロイ・ウェザビーです。

画像出典:Hellbus, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
彼は自らの.378ウェザビー・マグナムを.30口径にネックダウンし、.30-378ウェザビーマグナム弾を開発。極端に軽量な特製弾と燃焼速度の遅い火薬を組み合わせて試験を行いました。その結果、初速は5,000 fpsを突破し、さらに高密度で燃焼速度の遅い火薬を用いたことで6,000 fps、すなわち秒速1,830メートルを超える速度が達成されたと記録されています。これは通常のライフル弾の倍以上の速度であり、砲弾の破片飛翔速度に近い領域に属するものでした。
しかし、この記録はあくまで特殊条件下での実験的成果にすぎません。使用された弾は通常の狩猟用弾頭よりはるかに軽量な特製弾であり、火薬も市販されない特殊な超低燃焼速度のものが用いられました。目的は装甲板の研究であり、狩猟や競技用途を想定したものではなかったのです。したがって、6,000 fpsという数字は「伝説的な実験記録」として語り継がれる一方で、実用弾薬の性能とは区別して理解する必要があります。
現在市販されている.30-378ウェザビー・マグナムは、165〜200グレイン弾でおおよそ3,100〜3,500 fps程度の初速を持ちます。これは世界最速クラスの市販ライフル弾として十分に驚異的ですが、6,000 fpsには到底及びません。
市販品で最速のライフル弾 .220 Swift

画像出典:Ultratone85, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
一般流通の市販品の中で最速とされるライフル弾は、.220スウィフト(.220 Swift)で、40グレイン弾を用いた場合に約4,500 fps(最高4,665 fps)に達します。
その他の高速弾薬としては、.17 レミントン(約4,200 fps)、.223 WSSM、.204 ルガー、.22-250 レミントン(いずれも約4,000 fps前後)が知られています。
.17 IN-IMPを超える速度を持つ弾薬は、現実には存在しないと考えられています。インターネット上では24,000 fpsに達するという架空の設計が噂されることもありますが、これは実証もされておらず、実用的でもありません。商用弾薬は概ね4,000〜4,500 fpsが限界であり、.17 IN-IMPの速度には到底及びません。
速度比較を整理すると、.17 IN-IMPが6,189 fpsで極端なワイルドキャット弾薬として頂点に立ち、商用弾薬では.220スウィフトが4,300~4,665 fps fpsで最速、続いて.17 レミントンが4,145 fps、.223 WSSMが4,000 fps程度となります。
結論として、.17 IN-IMPは記録上最速のライフル弾薬であり、これを超える速度を持つ弾薬は確認されていません。商用弾薬はそれより大幅に遅く、最速でも.220スウィフトが限界とされています。
| 弾薬名 | 弾頭重量 (gr) | 初速 (fps) | マズルエナジー (ft-lbf) | 初速 (マッハ) |
|---|---|---|---|---|
| .17 Incinerator Improved | 33 | 6189 | 2807 | 5.50 |
| .30-378 Weatherby Magnum(試験用) | 30 | 6000 | 2399 | 5.33 |
| .17 Incinerator | 33 | 5883 | 2537 | 5.23 |
| .220 Swift | 40 | 4500 | 1933 | 4.03 |
| .204 Ruger | 32 | 4225 | 1269 | 3.75 |
| .17 Remington | 23 | 4145 | 878 | 3.68 |
| .223 WSSM | 40 | 4000 | 1422 | 3.56 |
| .22-250 Remington | 55 | 3680 | 1654 | 3.27 |
| .30-378 Weatherby Magnum(市販) | 180 | 3420 | 4674 | 3.04 |
.220スウィフト(.220 Swift / 5.56×56mmSR)

.220スウィフトはウィンチェスター社が1935年に開発した小型獣や害獣狩猟用のライフル弾薬で、世界で初めてファクトリーロード(工場装填弾薬)として秒速1200メートルを超える初速を実現したことで知られています。弾頭径は.224インチで、セミリムド・ボトルネック型のケースを持ち、当初はウィンチェスターM54ボルトアクションライフルに採用され、後にウィンチェスターM70でも標準口径として提供されました。
非常に高い弾速と精度を誇り、375ヤード(約343m)程度まで精密射撃が可能とされていますが、その一方で銃身摩耗が早い「バレルバーナー」と批判され、200~300発で摩耗するとの指摘もありました。しかし高品質なステンレスバレルでは4000発以上でも精度を維持した例も報告されています。
狩猟用途では小型獣に極めて有効とされていますが、大型獣への使用は州や国によって禁止される場合があり、著名ハンターがシカや大型獣に用いた記録もあるものの、軽量高速弾は骨に当たると破片化しやすくリスクが高いとされました。
後発の.22-250レミントンがより広く普及しましたが、.220スウィフトは超高速弾薬の先駆けとして歴史的意義を持ち、狩猟適用を巡る論争を呼んだ弾薬であるといえます。
.204 ルガー(.204 Ruger / 5.2x47mm)

.204ルガーは、2004年にホーナディ社とルガー社が共同開発した小口径ライフル用のセンターファイアカートリッジです。基となった.222レミントンマグナムの薬莢を縮径し、ショルダー部を前進させ角度を30度に変更することで設計されました。弾頭径は5.2mmで、弾頭重量24~55グレインの弾頭が使用可能です。
特徴は非常に高い初速で、ホーナディの装弾では32グレイン弾で秒速約4,225フィートを記録し、当時市販弾薬としては世界で二番目の高速弾でした。専用の推進薬を用いることで高速度と銅残渣付着防止を両立しています。
発射時の反動や発熱が少なく、効率的で高精度な弾道性能を持ち、特にバーミント(害獣)猟に適しています。最大有効射程は約500ヤードで、フラットな弾道を維持しやすいのが利点です。
開発直後から銃器メーカーや弾薬メーカーが採用し、ルガー社はボルトアクションやシングルショット(単発)ライフルを提供しました。結果として.204ルガーは、.22口径高速弾と.17口径小弾の中間的存在として位置づけられ、軽量弾で高速度を求める射撃用途に広く普及しました。
.17 レミントン(.17 Remington / 4.4x45mm)

.17レミントンは1971年にレミントン社が開発した小口径ライフル弾で、.223レミントンを基に薬莢を縮小し弾頭径を4.37mmにした構造を持ちます。初速は4000フィート毎秒を超える非常に高い速度と低反動、フラットな弾道が特徴で、プレーリードッグなど小型害獣の狩猟に適しています。
最大有効射程は約400メートルですが、弾頭の弾道係数が低いため風の影響を受けやすい欠点があります。一方で小さな貫通孔と出口創の少なさから、毛皮を傷つけずに捕獲できる利点もあります。
欠点としては銃身に金属被膜が蓄積しやすく、精度低下や圧力上昇を招くため頻繁なクリーニングが推奨されます。弾頭重量より火薬量が多い場合もあり、精度に影響することがありますが、総じて高精度で知られています。現在も1:9のライフリングツイストが標準で、バリエーションとして17-222や17-223が存在します。
.223 WSSM(5.56×42mm)

.223ウィンチェスター・スーパーショートマグナム(.223 WSSM)は、2003年にウィンチェスターとブローニングによって開発されたライフル弾薬で、.300 WSMを短縮したケースを基にした高速弾です。.223レミントンを意識した名称で、世界最速級の市販.22口径弾とされ、最大で秒速4600フィートに達します。ただし、.220スウィフトが依然として最高速度記録を保持しています。
この弾薬は長距離のバーミントハンティングに適している一方、中型獣への有効射程は200ヤード程度とされます。導入当初から「バレル摩耗が激しい」との批判がありましたが、ブローニングはクロムライニングを施した銃身を採用し、耐久性を強調しています。
性能面では、.223レミントンや.22-250に比べて初速とエネルギーで優位性を持ち、例えば55グレイン弾で.223レミントンより約600フィート毎秒速く、エネルギーも600ft·lbf上回ります。これにより小型獣狩猟において高い効果を発揮しますが、汎用性には限界があると評価されています。
.22-250 レミントン(.22-250 Remington / 5.7x48mm)

.22-250レミントン(5.7x48mm)は、非常に高初速を持つ.22口径ライフル弾で、主にバーミントや小型獣の狩猟に用いられます。軽量弾では秒速4,000フィートを超える性能を発揮し、1930年代には「22 Varminter」として知られ、ハイドロスタティックショック効果(着弾後の弾頭の通過経路から離れた場所でも損傷が起こる現象)で注目されました。
1937年に.250-3000サベージ弾を基にしたワイルドキャットとして誕生し、柔軟な装弾性能と経済性、ボックスマガジンとの相性の良さから普及しました。1963年にブローニング社が採用し、1965年にはレミントン社が正式規格化したことで商業弾薬として定着しました。
1980年代には英豪の特殊部隊が都市部での対テロ作戦に使用し、過貫通や跳弾を抑える目的で活用されました。現在では米国西部のプレーリードッグ狩猟や、豪州・ニュージーランドでの中型獣狩猟にも広く用いられています。
レールガンよりも高速なNASAのガスガン

一般的な銃とは異なりますが、高速な「銃」としてNASAエイムズ研究センターで設計された「ライトガスガン(Light-gas gun / 二段式軽ガス銃)」が存在します。このガスガンは、宇宙デブリ衝突試験に必要な10〜11 km/sの超高速度での発射を可能にし、軍事用レールガンよりも高速です。
宇宙デブリとは、地球周回軌道に残された不要な人工物(壊れた衛星やロケットの破片など)のことです。高速で飛行しているため、人工衛星や宇宙ステーションに衝突すると大きな危険をもたらします。
水素やヘリウムといった軽いガスを使って投射体を加速し、ピストンで圧縮したガスをラプチャーディスク(圧縮ガスを一瞬で解放するための弁)から一気に砲身へ送り込むことで、通常のライフル弾では到底届かない領域まで速度を高めることができます。
従来のライトガスガンは最大で約9 km/sが限界でしたが、新しく設計された「P10」では10〜11 km/sを安定して再現でき、改良モデルでは12〜13 km/sという驚異的な速度も可能とされています。これは市販ライフル弾の約1.2〜1.4 km/sと比べて桁違いであり、宇宙デブリの衝突を地上で忠実に再現できる設計です。
| 弾薬名 | 初速 (m/s) | マッハ |
|---|---|---|
| ライトガスガン | 11,000 | 32 |
| レールガン(防衛装備庁実績) | 2,297 | 7 |
| .17 Incinerator Improved | 1,886 | 5.5 |
| 5.56mm NATO | 960 | 2.8 |
| 9mmパラベラム | 336 | 1.07 |
- ライトガスガン
- 水素やヘリウムなど軽いガスを使い、ピストンで圧縮して投射体を加速。
- 実験で7〜9 km/sが一般的、NASAの新設計「P10」では10〜11 km/sを安定して再現。
- 改良により12〜13 km/sも理論的に可能。
- 主に宇宙デブリ衝突試験や材料研究に利用される。
- レールガン
- 電磁力で投射体を加速する兵器技術。
- 日本の防衛装備庁が開発した試験艦搭載型では秒速2,297 m(約2.3 km/s、マッハ7相当)を達成。
- 米海軍やJAXAの研究では最大8 km/s未満が報告されており、理論的には16 km/sも可能とされるが、砲身摩耗や電力供給の制約で未達。
- AccurateShooter Bulletin, 17 Incinerator: Ultimate Varmint Cartridge with Mach 5 Speed, 2017.
- AccurateShooter Bulletin, 17 Incinerator (April 1 Feature), 2017.
- OKShooters Forum, 17 Incinerator / 17 Incinerator Improved Discussion Thread.
- Wikipedia, .220 Swift.
- 24/7 Wall St., The Fastest Ammunition on the Market, 2022.
- Outdoor Life (Facebook Post), The .220 Swift is Still the Fastest Commercial Rifle Cartridge in the World.
- Wikipedia, .17 Remington.
- Field & Stream, The Fastest Rifle Cartridges.
- Rock Island Auction Company Blog, What is the Fastest Bullet?.
- YouTube, 17 Incinerator Demonstration Videos.
- Arizona Ammunition, Fastest Rifle Cartridge on the Planet.
- Guns Fandom Wiki, .221-17 IMP.
- AccurateShooter, Cartridge Guides: .17 Caliber.
- Outdoor Life, Best Wildcat Cartridges.
- Sportsman’s Warehouse, Recoil Table.
- Milsurps Forum, Fastest Rifle Cartridge Discussion Thread.
- Outdoor Life, 30-378 Weatherby Magnum: Fastest Rifle Cartridge.
- Rock Island Auction Company Blog, Fastest Bullet Discussion.
- The Firing Line Forum, Weatherby Cartridge Velocities Discussion.
- Africa Hunting Forum, The Weatherby Connection.
- Weatherby Nation Forum, .30-378 Weatherby Magnum Discussion.
- その他、多数の資料



