これを詳細に解説しようとすると銃創学と弾道学の解説を延々としなければならないので、簡潔に要点のみ述べたいと思います。
結論を言えば、「当たり所次第」です。
至近距離における9mmと5.56mmを比較したとき、どちらもターゲットを行動不能に陥らせる能力がありますが、一発でそれを達成する確率はどちらも高くありません。対人用としてターゲットを行動不能にする可能性を高めたければ、7.62x51mm以上の弾速と弾頭重量が必要です。
ピストル弾とライフル弾による銃創の違いで異なるのは、ピストル弾は弾頭と接触した組織にのみダメージを与えるのに対し、高速のライフル弾では弾頭が接触していない組織にまでダメージを与える能力があるという点です。
高速で体内を突き進むライフル弾は大きな瞬間空洞を形成し、臓器が持つ弾性限界を超えることで広範囲にダメージが広がります。
ところが、その効果は常に現れることはなく、体のどこに命中したかという条件によって異なります。
臓器はそれぞれ弾性が異なり、肝臓や腎臓などの臓器は伸縮の限界を超えやすいため、これらの臓器に影響を与える箇所に着弾すると、瞬間空洞が消えたあとも臓器の組織が元の状態に戻ることができず致命傷になります。しかし、筋肉、肺、胃、腸などは伸縮性が高く、瞬間空洞形成による伸縮にも比較的に耐性がある特徴があります。
M855A1は体の外側にある筋肉や脂肪を貫通した後にジャケットが分離し、フラグメンテーションが起こることで臓器にダメージを与え、先端のスチールペネトレーターとコアの合金がタンブリングをを起こしながら深いところまで進みます。この際、偏向(ヨー)によって進行方向を変化させつつ、最終的に体内に留まって慣性エネルギーを消費します。
(参考までにマズルエナジーを比較すると、9mmは約350ft-lbfに対し、M885A1は約1370ft-lbfです)
9mmと5.56mmが致命傷となる臓器に命中したとき、銃創の状態は5.56mmの方が組織の破壊が大きいといえますが、ターゲットを行動不能にするという結果はどちらも同じです。また逆に、致命傷とならない箇所に着弾した場合も同様です。
アフガニスタンでは5.56mmを胸に受けた戦闘員が銃撃を継続した報告例がありますが、こうした報告例は法執行機関における9mmでも存在し、胸に命中させて肺に穴を開けただけでは即行動不能には陥らないケースがあります。
このような背景を知ると、「何故9mm、.40S&W、.45ACPの銃創は似通っているのか」「何故装弾数が重要なのか」といった理由も分かるかと思います。
>至近距離から撃たれ右上腕部を貫通、骨に当たらず抜けたきれいな傷で筋肉組織もほとんど無傷だった。
M855では着弾から12cmほどでジャケットが分離し、M855A1では5cmほどで現れます。
そのため腕の筋肉に命中してもすぐに組織が破壊されることはなく、綺麗に貫通することが多いと言われています。