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空に向けて撃った弾は、落ちてきても大丈夫?祝砲や威嚇射撃の危険性を徹底解説

空に向かって銃を撃っても安全なのでしょうか?

答えは、安全ではありません。危険な行為です。

空砲と異なり、実弾は落下時に致命的な速度に達することがあり、人に当たると死傷する可能性があります。

本記事では、空に向けた射撃によるリスクと、角度や弾の種類によって変わる落下速度を解説します。

また、各国の法律や規制、実際の事故例を通して、空に向けた射撃がどれほど危険かを詳しく掘り下げます。

空に向けて銃を撃つのは危険

銃の画像
画像出典:quora.com

弾は90度の角度で真上に撃てば、やがて重力によって弾速がゼロに近づき、そのまま落下します。

このとき弾は先端から落下することもあれば、横向きや後ろ向きに落下することもあり、空気抵抗を受けながら終端速度に到達します。

弾の落下速度は形状や向きによって空気抵抗が異なるため差がありますが、条件次第でおおむね200~700フィート/秒(約61m~213m/秒)と言われています。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC / Centers for Disease Control and Prevention)によると、弾頭の自由落下速度は61m/秒以上(時速約220km以上)となり、46~61m/秒以上の速度で人間の皮膚を貫通、これ以上の速度は頭蓋骨を貫通するとしています。

日本のエアガンは重さ0.2g~0.25gのプラスチック製BB弾を初速60~90m/秒で発射しますが、実弾(※)は重さ約7.5gの弾頭が67m/秒で落下し、BB弾の数十倍の重さの弾頭がエアガンの初速に近い速度で落下することがわかります。

※9x19mm 弾頭重量115グレインの場合

射角によって落下速度と弾速が異なる

弾頭が垂直に落下する速度(自由落下速度)は人体にとって危険な速度ですが、実際に空に向かって撃った場合の落下速度はもっと危険な速度になります。

なぜなら、実際に空に向かって射撃した場合、90度の角度で真上に撃つケースは稀だからです。

銃の画像
画像出典:livebook.manning.com

もし射角が80度、70度と小さくなれば、弾は放物線を描いて飛ぶため、弾の飛翔高度が頂点に達しても弾速はゼロになりません。

この場合、高速の弾が数キロ離れた場所に落下し、人に命中すれば死傷する可能性が高くなります。

事実、海外では祝砲として空へ向けて発射された弾により、多くの死傷者が出ています。

年月日死傷者数概要
1819年12月26日5人死亡インドネシアのタンジュンピナン島で酋長の結婚式を祝う発砲が原因でオランダとブギス族の戦争が勃発。
1859年12月1人死亡インドで、ある男性が遠距離からの落下弾によって死亡。
弾丸が肩、肋骨、肺、心臓、横隔膜を貫通していた。
1950年7月4日1人死亡ニューヨークのジャイアンツ球場で観戦中の男性が流れ弾で死亡。
1994年12月31日1人死亡ニューオーリンズのリバーワークで観光中の女性が祝砲の流れ弾により死亡。
1999年1月1日1人負傷フィラデルフィアで新年を祝う銃撃の流れ弾により、男性が頭部に被弾し右半身不随に。
1999年6月14日1人死亡アリゾナ州で14歳の少女が流れ弾により死亡。
この事件を契機に祝砲の規制が強化された。
2003年7月22日20人以上死亡イラクでフセインの息子の死を祝う祝砲により20人以上が死亡。
2003年10月12日負傷者なしセルビア・ベオグラードで、結婚式の参加者が誤って小型飛行機を撃墜。
2005年1月1日1人死亡北マケドニアのスコピエで新年を祝う発砲で少女が流れ弾に当たり、二日後に死亡。
2006年にはIANSAが啓発キャンペーンを実施。
2007年2月25日5人死亡パキスタンの凧祭りでの流れ弾により、6歳の少年を含む5人が死亡。
2007年7月29日4人死亡
17人負傷
バグダッドでアジアカップ優勝を祝う祝砲により多数の死傷者が発生。
2008年1月7日負傷者なしモンテネグロのポドゴリツァ空港で着陸中のモンテネグロ航空機が銃撃を受け、尾部に弾痕が発見された。
銃撃の理由は不明だが、正教会のクリスマス祝賀で発砲された可能性がある。
2010年1月1日1人死亡ジョージア州の教会で4歳の少年が祝砲の流れ弾に当たり死亡。
2010年8月2人死亡
13人負傷
ヨルダンでのタウジヒの発表祝賀中に祝砲で死傷者が発生。
2012年7月4日1人死亡カリフォルニア州で女性が花火を観賞中に流れ弾により死亡。
2012年10月30日23人死亡サウジアラビアの結婚式で祝砲により電線が落下し、23人が感電死。
2012年11月21日1人死亡
3人負傷
イスラエルとの停戦後、ガザ地区での祝砲により1人が死亡し、3人が負傷。
2012年12月25日1人死亡パラグアイのアスンシオンで、3歳の少女が流れ弾により死亡。
2013年1月1日1人死亡メリーランド州で10歳の少女が花火観賞中に流れ弾に当たり死亡。
2013年6月6日1人死亡パキスタンで祝砲により42歳の女性が死亡し、19歳の姪も重傷。
2013年7月4日1人死亡バージニア州で7歳の少年が花火観賞中に頭部に流れ弾を受けて死亡。
2014年4月6日1人死亡レバノンのシドンで、隣人の結婚式からの流れ弾で20歳の妊婦が頭部に被弾し死亡。
2015年1月1日1人死亡テキサス州ヒューストンで男性が家族と共に花火を観賞中に流れ弾に当たり死亡。
2016年11月16日1人死亡
3人負傷
インドのハリヤーナー州で祝砲により新郎の叔母が死亡し、親族3人が負傷。
2017年1月1日1人負傷テキサス州の州議会議員が新年の祝砲により頭部を負傷。
2019年12月31日1人死亡テキサス州の看護師が新年の祝砲により死亡。
2020年1月1日負傷者なしフロリダ州セントピーターズバーグのレストランで、食事中の客が流れ弾に当たる。
2021年1月2日1人死亡レバノン・ベイルートの祝砲によりシリア人難民が死亡し、空港に駐機中の航空機も被害。
2021年9月4日17人死亡
41人負傷
アフガニスタンのカブールでタリバンがパンジシール渓谷占拠を祝う祝砲により多数の死傷者が発生。
2023年1月1日2人死亡ミシガン州ローレンスタウンシップでのパーティーで祝砲により2人が死亡、62歳の男が現場で逮捕。
2023年12月31日1人死亡テネシー州メンフィスで3歳の男児が祝砲による流れ弾により死亡。

※参考:Celebratory gunfire(英語)

TVドラマなどでは警官が空に向けて威嚇射撃をするシーンがありますが、これは非常に危険な行為といえます。

アメリカの多くの法執行機関は独自のポリシーとして威嚇射撃を禁止しているものの、まれに(または偶発的に)威嚇射撃を行った例がありますが、そういった場合は空に向けてではなく、跳弾を考慮しながら安全に弾が停止する場所(地面など)に向けて発射されることがほとんどです。

各国の規制

9mm弾の画像

空への発砲は各国で規制されています。

例えば、アメリカの多くの州や地域では空に向けて射撃する行為が「Reckless Discharge(無謀な発砲)」として違法行為に該当する場合があります。

法律および罰則
北マケドニア祝賀で銃を発砲した場合、最長10年の懲役刑が科される。
イタリア刑法703条により、居住地またはその近辺での無許可の銃発砲は最大103ユーロの罰金、混雑した場所での発砲は最大1ヶ月の懲役。
花火やロケット、熱気球などの「危険な発火と爆発」にも適用。
パキスタン刑法第144条により、祝砲で被害が発生した場合には通報が可能。
多くの発砲事件は報告されていない。
アメリカ合衆国アリゾナ州:1999年の流れ弾による14歳死亡事件を受け、シャノン法により発砲が軽犯罪から重罪に引き上げられた。
カリフォルニア州:空中への発砲は重罪であり、州刑務所での3年の懲役。流れ弾で死亡事故が起きた場合は殺人罪適用も。
ミネソタ州:墓地や公共交通車両内外での発砲が違法。地域自治体も発砲規制が可能。
オハイオ州:公の場所での発砲はクラスB軽犯罪で、最大180日の禁固刑および最大2,000ドルの罰金。
テキサス州:無差別発砲はクラスA軽犯罪で、最長1年の禁固刑および最大4,000ドルの罰金。流れ弾による死傷者が発生した場合は重罪適用も。
ウィスコンシン州:「危険な武器による安全危険行為」から死亡事故の場合の「無謀な殺人」まで適用され、9ヶ月から最長25年の懲役刑。

弾が垂直に落下した場合の速度

マガジン画像

以下は弾の自由落下速度を比較した一例です。

使用弾薬ベース(※1)
フィート/秒
ベース(※1)
メートル/秒
タンブリング(※2)
フィート/秒
タンブリング(※2)
メートル/秒
.22ショート1685113441
.22LR1986014243
.25ACP1915814645
.32ACP1875715848
.380ACP18757
9mm21967
.38spl23772
.44マグナム24976
.45ACP22870
.223rem2447414143
7.62x39mm2648115848
.30-3028286
.30-062949017152
#4ショット13441
00バック15748
データはHaag L.C. 「Falling bullets」 1995 より

(※1) ベース:弾の底側から先に落ちる速度(弾頭は重心が後ろよりであるため)

(※2) タンブリング:弾が横転して落下する速度

質問と回答

ピストルの画像

弾の落下に関する質問をいただいているので回答します。

質問の要点は次のとおりです。

  • もし弾丸を真上に撃った場合、空気抵抗で速度がゼロになり、自然落下してくる。
  • 雨や霰が落ちてきて人を傷つけないのと同じように、大きなダメージはないはず。
  • 仮に氷や水の塊を弾丸と同じ速度で撃ち出せば、それも凶器になる。要は移動エネルギーの問題だ。
  • 真上に撃つのは難しく、弾が放物線を描いて落ちる場合、発射時のエネルギーに加えて落下エネルギーも加わり、弾丸の殺傷能力はなくならないと思う。
  • ガリレオのピサの斜塔の実験から、物体の重さは落下速度に影響を与えない。

真上に撃ったら空気抵抗で速度がゼロになる?

空に向けて発射すると、その弾は上昇し、やがて重力と空気抵抗によって速度が遅くなります。

最終的には、最高点で速度がゼロになります。

その後、自由落下として降りてくることになりますが、この降下中には空気抵抗が大きく影響します。

完全に真上に撃てた場合は、弾丸がほぼ自由落下の状態で戻ってくるため、その速度は発射時の速度とは大きく異なります。

雨や霰が落ちてきて人を傷つけないのと同じこと?

雨や霰は非常に軽く、また柔らかいため、落下しても重大な被害を与えることはありません。

しかし、鉛弾は密度が高く、硬く、終端速度も速いので、落下して人に当たると大きな衝撃を与える可能性があります。

仮に「氷の弾丸」が落下する場合も「ひょう」のように一定の脅威になる可能性がありますが、鉛の弾が落下する場合はその質量と速度により大きな危険を伴います。

※ひょうの落下速度は、直径5mmで時速約36km、直径70mmで時速約140kmになります。

真上に撃つのは難しい?


実際に完璧に真上に撃つことは難しく、少しでも角度がずれると、弾丸は放物線を描きながら落下します。

この場合、弾丸は弧を描き、落下する際には射撃方向のエネルギーが依然として残っているため、危険性が増します。

放物線を描きながら落下する弾は殺傷能力を維持する可能性が高いです。

物体の重さは落下速度に影響を与えない?

ガリレオの「ピサの斜塔の実験」は、「物体の重さが異なっても自由落下の加速度(重力加速度)は同じである」という基本的な物理法則を示したものです。

空気抵抗のない真空中では、鉄球と羽毛は同じ速度で落ちます。

しかし、空気中では空気抵抗が関与するため、質量が大きい物体ほど終端速度が速くなる傾向があります。

これは空気抵抗が物体の形状や速度に依存し、軽い物体ほどその影響を受けやすいためです。

弾の形状は流線型であるため、空気抵抗が少なく、雨や霰よりも高速で落下します。

※雨の落下速度は時速25~36kmといわれています。

まとめ

落下する弾丸イメージ画像

弾が自由落下する速度は「終端速度」(Terminal Velocity)に達します。

これは物体が重力によって引っ張られ続けながらも、空気抵抗によって加速が抑えられた時に到達する最大速度です。

落下物大きさ質量比重終端速度
0.5~6 mm0.0000654 g
~0.113 g
1.0 g/cm³25~36 km/h
ひょう5 mm0.06 g0.85 g/cm³36 km/h
鉄球10 mm4.1 g7.85 g/cm³47 km/h
ひょう10 mm0.45 g0.85 g/cm³50 km/h
ひょう50 mm56 g0.85 g/cm³115 km/h
ひょう70 mm153 g0.85 g/cm³140 km/h
9x19mm弾D:9 mm
L:13.9 mm
7.5 g10 g/cm³240 km/h

終端速度は、「形状」「重量」「空気の密度」に依存し、9mm弾が自由落下した場合は時速約240kmになります。

9mm弾は時速約1,300kmで発射されるため、これと比較すると自由落下時の時速240kmは低速ですが、それでも依然として危険な速度です。

頭部に当たった場合、重傷や死亡の可能性は否定できません。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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