
この記事の要約
- 空に向けて銃を撃つと弾は終端速度で落下し、頭蓋骨を貫通するほど危険。
- 垂直発射より斜め発射の方が速度を維持しやすく、広範囲に致命的被害を及ぼす。
- 世界各地で祝砲による死傷事故が多数発生しており、多くの国で違法行為として規制されている。
銃を空に向けて発射する行為は、映画やドラマで見かける祝砲や威嚇射撃のシーンで印象的ですが、実際には非常に危険です。
発射された弾は上昇後に落下し、人や物に致命的な被害を与えることがあります。
本記事では、空に向けた射撃によって落下する弾の速度や威力、事故例、さらには各国の規制までを詳しく解説し、なぜこの行為が避けるべき危険な行為であるかを科学的・法的な観点から整理します。
※用語解説と参考文献は記事の最後にまとめています。
空に向けて銃を撃つと、どうなる?

発射された弾は非常に高速で大きな運動エネルギーを持っています。
運動エネルギーは物体の質量と速度の二乗に比例するため、弾の質量が小さくとも速度が高ければ大きな破壊力を生じます。
垂直に発射された弾は一度上昇して速度が落ち、最高点で停止した後に再び落下しますが、落下中は空気抵抗の影響を受けます。空気抵抗は弾の形状や断面積、速度に依存して落下速度を低下させる要因となります。
垂直発射の場合、落下中にタンブリング(横転して姿勢を失う現象)が生じやすく、これにより空気抵抗が増えて終端速度※は発射直後の速度よりかなり遅くなります。
終端速度(Terminal velocity)とは、物体が自由落下する際に、空気抵抗と重力が釣り合い、以降速度が変わらなくなる状態のことを指します。この速度に達すると、物体は一定の速度で落下し続けます。
弾の自由落下速度と危険性

米陸軍のジュリアン・ハッチャー少将の研究によると、.30口径ライフル弾は終端速度として約200マイル毎時(約毎秒90メートル)に達するとされています。
また、別の情報では、落下する弾の速度は毎秒90〜180メートルに達すると報告されています。
プエルトリコでの調査では、空に向かって撃たれた「祝砲」による弾は毎秒200フィート(約毎秒61メートル)を超える速度で落下し、頭蓋骨を貫通するのに十分な力を持つとされています。
プエルトリコの事例では、落下速度が毎秒約61メートルを超える弾によって死傷者が発生しました。
研究によれば、「落下する弾による負傷者の多くは頭部に被弾しており、一般の銃創よりも死亡率が高い傾向がある」とされています。
研究では、1985年以降に治療された落下する弾による負傷者118人のうち、77%が頭部に被弾し、死亡率は32%と、一般的な銃創による負傷よりも有意に高いことが示されています。
参考:Spent bullets and their injuries: the result of firing weapons into the sky
以下は弾の自由落下速度を比較した一例です。
| 使用弾薬 | ベース(※1) フィート/秒 | ベース(※1) メートル/秒 | タンブリング(※2) フィート/秒 | タンブリング(※2) メートル/秒 |
|---|---|---|---|---|
| .22ショート | 168 fps | 51 m/s | 134 fps | 41 m/s |
| .22LR | 198 fps | 60 m/s | 142 fps | 43 m/s |
| .25ACP | 191 fps | 58 m/s | 146 fps | 45 m/s |
| .32ACP | 187 fps | 57 m/s | 158 fps | 48 m/s |
| .380ACP | 187 fps | 57 m/s | – | – |
| 9mm | 219 fps | 67 m/s | – | – |
| .38spl | 237 fps | 72 m/s | – | – |
| .44マグナム | 249 fps | 76 m/s | – | – |
| .45ACP | 228 fps | 70 m/s | – | – |
| .223rem | 244 fps | 74 m/s | 141 fps | 43 m/s |
| 7.62x39mm | 264 fps | 81 m/s | 158 fps | 48 m/s |
| .30-30 | 282 fps | 86 m/s | – | – |
| .30-06 | 294 fps | 90 m/s | 171 fps | 52 m/s |
| #4ショット | 134 fps | 41 m/s | – | – |
| 00バック | 157 fps | 48 m/s | – | – |
これを時速に変換すると以下のようになります。
| 使用弾薬 | ベース (時速) | タンブリング (時速) |
|---|---|---|
| .22ショート | 184 km/h | 147 km/h |
| .22LR | 217 km/h | 156 km/h |
| .25ACP | 209 km/h | 160 km/h |
| .32ACP | 205 km/h | 173 km/h |
| .380ACP | 205 km/h | – |
| 9mm | 240 km/h | – |
| .38spl | 260 km/h | – |
| .44マグナム | 273 km/h | – |
| .45ACP | 250 km/h | – |
| .223rem | 268 km/h | 155 km/h |
| 7.62x39mm | 289 km/h | 173 km/h |
| .30-30 | 309 km/h | – |
| .30-06 | 323 km/h | 188 km/h |
| #4ショット | 147 km/h | – |
| 00バック | 172 km/h | – |
弾は球形ではなく横長の形状をしているため、横倒し状態で落下すると自由落下速度が遅くなります。
しかし、弾が先端や後端から落下すると速度が増し、致命的な速度になります。
以下は、「雨」や「ひょう」と比較した終端速度の違いを表しています。
| 落下物 | 大きさ | 質量 | 比重 | 終端速度 |
|---|---|---|---|---|
| 雨 | 0.5~6 mm | 0.0000654 g ~0.113 g | 1.0 g/cm³ | 25~36 km/h |
| ひょう | 5 mm | 0.06 g | 0.85 g/cm³ | 36 km/h |
| 鉄球 | 10 mm | 4.1 g | 7.85 g/cm³ | 47 km/h |
| ひょう | 10 mm | 0.45 g | 0.85 g/cm³ | 50 km/h |
| ひょう | 50 mm | 56 g | 0.85 g/cm³ | 115 km/h |
| ひょう | 70 mm | 153 g | 0.85 g/cm³ | 140 km/h |
| 9x19mm弾 | D:9 mm L:13.9 mm | 7.5 g | 10 g/cm³ | 160~240 km/h |
終端速度は、「形状」「重量」「空気の密度」に依存し、9mm弾が自由落下した場合は時速約160~240kmになります。
9mm弾は時速約1,300kmで発射されるため、これと比較すると低速ですが、それでも依然として危険な速度です。
頭部に当たった場合、重傷や死亡の可能性は否定できません。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC / Centers for Disease Control and Prevention)や関連する外傷研究では、落下物の速度と人体への影響について言及されています。一般に、物体が自由落下した場合、空気抵抗の影響により速度は一定値に近づきます。これを終端速度と呼びます。
弾頭のような小型で高密度、かつ空力的形状を持つ物体では、終端速度が60m/秒前後に達する可能性があります。この速度域では、人間の皮膚を損傷、条件次第では貫通する危険性があるとされています。さらに高い運動エネルギーを持つ場合、頭部などの脆弱な部位に深刻な損傷を与えるおそれもあります。
一方、日本で流通しているエアガンは、主に重さ0.2g~0.25gのプラスチック製BB弾を、初速およそ60~90m/秒で発射します。これと比較すると、実弾の弾頭は質量が大きく、例えば9×19mm弾の115グレイン弾頭では約7.5gになります。仮に同程度の速度であっても、質量差により運動エネルギーはBB弾を大きく上回ることがわかります。
※9×19mm弾、弾頭重量115グレイン(約7.5グラム)の場合
射角の違いによる影響とは?

「垂直に近い角度で発射された場合」と、「斜めに発射された場合」で、弾の速度や安定性が異なることが様々な研究から明らかになっています。
弾が垂直に落下する速度(自由落下速度)は危険な速度ですが、実際に空に向かって撃った場合の落下速度はもっと危険な速度になります。
なぜなら、実際に空に向かって射撃した場合、90度の角度で真上に撃つケースは稀だからです。

もし射角が80度、70度と小さくなれば、弾は放物線を描いて飛ぶため、弾の飛翔高度が頂点に達しても弾速は高速を維持します。
この場合、高速の弾が数キロ離れた場所に落下し、人に命中すれば死傷する可能性が高くなります。
斜めに発射された弾は、垂直に発射された場合よりも射程が長くなり、発射地点から遠く離れた場所に落下します。
研究によれば、ほぼ完全に垂直に発射された弾が最も速度を失うのに対し、角度をつけて発射された弾は、皮膚を貫通する速度を維持する可能性があると指摘されています。
結論として、どんな角度であっても、空に向けて銃を発射する行為は非常に危険であり、避けるべきです。
祝砲や祝賀の目的であっても、空に向けての発射は人命を危険にさらす行為と認識するべきでしょう。
ディスカバリーチャンネルのテレビ番組「MythBusters」は、「空に向けて発射された弾 Bullets Fired Up(シーズン4エピソード7)」(初放送日:2006年4月19日)の回で、弾の自由落下の危険性を検証しました。
終端速度と同じ速度で発射されるエアガンを使用し、9mm弾と.30-06弾を豚の頭に発射する実験や、実際に砂漠で上空に向けて発射し検証した内容です。
タンブリング(横倒し)状態での9mm弾の自由落下速度は146 fps(時速約160km)、.30-06弾は151 fps(時速約166km)と計算し、この条件では致死速度以下になることを確認しました。しかし、実際に空に向けて撃った場合は、ライフリングによる弾の回転によって姿勢が維持され、致命的な終端速度で落下する可能性が高いと結論付けました。

実際の事例

事実、海外では「祝砲」として空へ向けて発射された弾により、多くの死傷者が出ています。
以下はその事例です。
| 年月日 | 死傷者数 | 概要 |
|---|---|---|
| 1819年12月26日 | 5人死亡 | インドネシアのタンジュンピナン島で酋長の結婚式を祝う発砲が原因でオランダとブギス族の戦争が勃発。 |
| 1859年12月 | 1人死亡 | インドで、ある男性が遠距離からの落下弾によって死亡。 肩、肋骨、肺、心臓、横隔膜を貫通していた。 |
| 1950年7月4日 | 1人死亡 | ニューヨークのジャイアンツ球場で観戦中の男性が流れ弾で死亡。 |
| 1994年12月31日 | 1人死亡 | ニューオーリンズのリバーワークで観光中の女性が祝砲の流れ弾により死亡。 |
| 1999年1月1日 | 1人負傷 | フィラデルフィアで新年を祝う銃撃の流れ弾により、男性が頭部に被弾し右半身不随に。 |
| 1999年6月14日 | 1人死亡 | アリゾナ州で14歳の少女が流れ弾により死亡。 この事件を契機に祝砲の規制が強化された。 |
| 2003年7月22日 | 20人以上死亡 | イラクでフセインの息子の死を祝う祝砲により20人以上が死亡。 |
| 2003年10月12日 | 負傷者なし | セルビア・ベオグラードで、結婚式の参加者が誤って小型飛行機を撃墜。 |
| 2005年1月1日 | 1人死亡 | 北マケドニアのスコピエで新年を祝う発砲で少女が流れ弾に当たり、二日後に死亡。 2006年にはIANSAが啓発キャンペーンを実施。 |
| 2007年2月25日 | 5人死亡 | パキスタンの凧祭りでの流れ弾により、6歳の少年を含む5人が死亡。 |
| 2007年7月29日 | 4人死亡 17人負傷 | バグダッドでアジアカップ優勝を祝う祝砲により多数の死傷者が発生。 |
| 2008年1月7日 | 負傷者なし | モンテネグロのポドゴリツァ空港で着陸中のモンテネグロ航空機が銃撃を受け、尾部に弾痕が発見された。 銃撃の理由は不明だが、正教会のクリスマス祝賀で発砲された可能性がある。 |
| 2010年1月1日 | 1人死亡 | ジョージア州の教会で4歳の少年が祝砲の流れ弾に当たり死亡。 |
| 2010年8月 | 2人死亡 13人負傷 | ヨルダンでのタウジヒの発表祝賀中に祝砲で死傷者が発生。 |
| 2012年7月4日 | 1人死亡 | カリフォルニア州で女性が花火を観賞中に流れ弾により死亡。 |
| 2012年10月30日 | 23人死亡 | サウジアラビアの結婚式で祝砲により電線が落下し、23人が感電死。 |
| 2012年11月21日 | 1人死亡 3人負傷 | イスラエルとの停戦後、ガザ地区での祝砲により1人が死亡し、3人が負傷。 |
| 2012年12月25日 | 1人死亡 | パラグアイのアスンシオンで、3歳の少女が流れ弾により死亡。 |
| 2013年1月1日 | 1人死亡 | メリーランド州で10歳の少女が花火観賞中に流れ弾に当たり死亡。 |
| 2013年6月6日 | 1人死亡 | パキスタンで祝砲により42歳の女性が死亡し、19歳の姪も重傷。 |
| 2013年7月4日 | 1人死亡 | バージニア州で7歳の少年が花火観賞中に頭部に流れ弾を受けて死亡。 |
| 2014年4月6日 | 1人死亡 | レバノンのシドンで、隣人の結婚式からの流れ弾で20歳の妊婦が頭部に被弾し死亡。 |
| 2015年1月1日 | 1人死亡 | テキサス州ヒューストンで男性が家族と共に花火を観賞中に流れ弾に当たり死亡。 |
| 2016年11月16日 | 1人死亡 3人負傷 | インドのハリヤーナー州で祝砲により新郎の叔母が死亡し、親族3人が負傷。 |
| 2017年1月1日 | 1人負傷 | テキサス州の州議会議員が新年の祝砲により頭部を負傷。 |
| 2019年12月31日 | 1人死亡 | テキサス州の看護師が新年の祝砲により死亡。 |
| 2020年1月1日 | 負傷者なし | フロリダ州セントピーターズバーグのレストランで、食事中の客が流れ弾に当たる。 |
| 2021年1月2日 | 1人死亡 | レバノン・ベイルートの祝砲によりシリア人難民が死亡し、空港に駐機中の航空機も被害。 |
| 2021年9月4日 | 17人死亡 41人負傷 | アフガニスタンのカブールでタリバンがパンジシール渓谷占拠を祝う祝砲により多数の死傷者が発生。 |
| 2023年1月1日 | 2人死亡 | ミシガン州ローレンスタウンシップでのパーティーで祝砲により2人が死亡、62歳の男が現場で逮捕。 |
| 2023年12月31日 | 1人死亡 | テネシー州メンフィスで3歳の男児が祝砲による流れ弾により死亡。 |
TVドラマなどでは警官が空に向けて威嚇射撃をするシーンがありますが、これは非常に危険な行為といえます。
アメリカの多くの法執行機関は独自のポリシーとして威嚇射撃を禁止しているものの、まれに(または偶発的に)威嚇射撃を行った例があります。
しかし、そういった場合は空に向けてではなく、跳弾を考慮しながら安全に弾が停止する場所(地面など)に向けて発射されることがほとんどです。

各国の規制

空への発砲は各国で規制されています。
例えば、アメリカの多くの州や地域では空に向けて射撃する行為が「Reckless Discharge(無謀な発砲)」として違法行為に該当する場合があります。
以下は各国の法律と罰則一覧です。
| 国 | 法律および罰則 |
|---|---|
| 北マケドニア | 祝賀で銃を発砲した場合、最長10年の懲役刑が科される。 |
| イタリア | 刑法703条により、居住地またはその近辺での無許可の銃発砲は最大103ユーロの罰金、混雑した場所での発砲は最大1ヶ月の懲役。 花火やロケット、熱気球などの「危険な発火と爆発」にも適用。 |
| パキスタン | 刑法第144条により、祝砲で被害が発生した場合には通報が可能。 多くの発砲事件は報告されていない。 |
| アメリカ | アリゾナ州:1999年の流れ弾による14歳死亡事件を受け、シャノン法により発砲が軽犯罪から重罪に引き上げられた。 |
| カリフォルニア州:空中への発砲は重罪であり、州刑務所での3年の懲役。流れ弾で死亡事故が起きた場合は殺人罪適用も。 | |
| ミネソタ州:墓地や公共交通車両内外での発砲が違法。地域自治体も発砲規制が可能。 | |
| オハイオ州:公の場所での発砲はクラスB軽犯罪で、最大180日の禁固刑および最大2,000ドルの罰金。 | |
| テキサス州:無差別発砲はクラスA軽犯罪で、最長1年の禁固刑および最大4,000ドルの罰金。流れ弾による死傷者が発生した場合は重罪適用も。 | |
| ウィスコンシン州:「危険な武器による安全危険行為」から死亡事故の場合の「無謀な殺人」まで適用され、9ヶ月から最長25年の懲役刑。 |
無謀な殺人(Reckless murder)とは、殺す意図はなくても、他人の生命を無視した極めて危険な行為によって人を死なせた場合に適用される米国の法律用語です。飲酒運転での致死事故や、群衆に向けた無差別発砲、危険運転や違法レースでの死亡事故などが典型例です。
意図的な殺人と違い計画的な殺意はありませんが、重大な危険を理解しつつ無視した点で責任が重く、州によっては「Reckless homicide」や「Involuntary manslaughter」と呼ばれ、重罪として長期の懲役刑が科されます。
質問と回答(Q&A)

- 真上に撃つと、弾はどうなるのでしょうか?
-
真上に撃つと、減速して最高点で止まり、終端速度で落下します。発射時より遅いものの、秒速61〜91mに達し皮膚や頭蓋骨を貫通する危険があります。
真上よりも斜めに撃たれた弾は速度を保ちやすく、さらに致命的です。都市部では被害の可能性が高く危険です。
- 垂直に落下する弾は危険ですか?
-
はい、致命傷になりえます。
以下の理由で危険です。
- 高速で落下し、90〜180m/sに達する可能性があります。
- 60m/s未満でも頭蓋骨を貫通することがあるという医師の見解があります。
- 頭部への被弾が多く、死亡率が高いとされています。
- 落下する弾は、人に当たるとどの程度の威力があるのですか?
-
例えば150グレイン(約9.7g)の弾が終端速度で落下すると20〜40ジュール以上のエネルギーを持ち、条件次第では致死的となります。
これは発射直後の銃弾(数百〜数千ジュール)より小さいものの、人の頭部や首に当たれば致命傷を与える威力です。
- 真上に撃った弾は、撃った人がいる真下に落ちてくるのですか?
-
真上に撃っても、発射地点にそのまま落ちてくることはほとんどありません。
上昇中に弾は安定を失って回転しながら落下し、風や発射時のわずかなずれ、さらには地球の自転の影響によって軌道が乱れるためです。その結果、弾は広い範囲に散らばって落下し、実験でも射手の真下に戻ることは確認されていません。
わずかでも角度がついていれば銃弾は弧を描き、離れた場所に落下して致死的な速度を保つ場合もあります。
したがって、真上に撃たれた弾の落下地点を正確に予測することはできません。
- 海外では落下する弾による事故は発生しているのですか?
-
世界各地では落下弾による事故が多数報告されており、負傷や死亡につながる事例が後を絶ちません。特に祝砲や無差別発砲による落下弾が深刻です。
- アメリカでは2024年1月から9月の間に、流れ弾(落下弾を含む)によって34人が死亡し62人が負傷しました。
- 1985年から1992年のロサンゼルスでは118人が落下弾で治療を受け、その致死率は32%に達しています。
- 2007年のイラクではサッカー勝利後の祝砲で3人が死亡し、クウェートでも湾岸戦争終結時に20人が犠牲となりました。
- プエルトリコ(2003〜2004年)では19件の負傷と1件の死亡が報告されています。
- インド・ハイデラバード(2006〜2010年)では165人の負傷と13人の死亡が確認されています。
- 警察の威嚇射撃は安全なのでしょうか?
-
警察による威嚇射撃は、その安全性と有効性をめぐって議論が分かれる行為です。多くの警察機関では歴史的に安全上の理由から禁止されてきましたが、近年では厳格な条件下で認める方針を導入する例も見られます。
最大の懸念は安全性です。空に撃てば落下弾の危険があり、地面に撃てば跳弾の恐れがあります。また、威嚇射撃が実際の攻撃と誤認されて状況が悪化する可能性も否定できません。調査では約8割の警察関係者が「危険が大きく実用性が低い」として否定的な立場を示しています。
一方で、サンノゼ市警のように、訓練と規則を整えた上で限定的に許可している機関も存在します。
ただし多くの法域では、威嚇射撃は法的責任を問われる可能性があります。国際警察首脳協会(International Association of Chiefs of Police)なども、デッドリーフォース(銃など致死性の武器)の使用が正当化される状況かつリスクを最小化できる場合に限り、慎重に許容する方針を示しています。
- 弾は落下時にライフリングが与えた回転が維持される?
-
真上に発射直後は急速に回転して姿勢を維持しますが、速度がほぼゼロに近づくと空力安定性を失い、下降中に横転(タンブリング)することが多いです。回転自体は続くものの、上昇時のような一貫した軸安定は保たれません。
しかし、斜め上に発射され角度がついている場合はジャイロ効果により姿勢を維持し、高速落下します。
- 落下する弾による被害者には女性や子供が多い?
-
はい、女性や子供が関与する暴力事件が少ないため、相対的に犯罪統計上の女性や子供の被害割合が多くなります。
プエルトリコでの調査では、祝砲による負傷者のうち15歳未満の子供が21%、女性が37%、39.6%が17歳以下の子供でした。
- 真上に撃った場合、空気抵抗で速度がゼロになるのでしょうか?
-
はい、最終的に上昇しきった時点でその速度はゼロになります。
その後の自由落下では空気抵抗が影響し、最終的に弾は終端速度で高速落下します。
斜め上に撃たれた場合は速度を維持しやすく、より致命的です。
- 雨や霰が落ちてきても人を傷つけないのはなぜですか?
-
雨や霰は非常に軽くて柔らかく、落下速度も低速なため、重大な被害を与えることはありません。
これに対して、鉛弾のように密度が高く硬い物体は、落下速度が速く、人体に致命傷を与えるリスクが大きいといえます。
- 仮に氷や水の塊が弾と同じ速度で撃ち出された場合、危険なのでしょうか?
-
はい、氷や水の塊が弾と同じ速度で落下すれば、それも一定の脅威になる可能性があります。
例えば、「ひょう」のような氷の塊が落下すると、直径5mmで時速約36km、直径70mmで時速約140kmに達することがあります。
しかし、鉛弾の方が質量と速度が大きく、より危険です。
- 雨の落下速度はどのくらいですか?
-
雨の落下速度は時速25~36km程度とされています。
これに対して、鉛弾の落下速度ははるかに速く、場合によっては時速200km以上にもなります。
- すべての物体は同じ加速度で落ちる?
-
空気抵抗がなければ、すべての物体は同じ加速度で落ちます。
空気抵抗がある現実の地上では、形や軽さによって落ち方が変わります。
ガリレオ・ガリレイは1589年から1592年の間、ピサの斜塔から異なる質量の物体を同時に落とし、落下時間が質量に依存しないことを示したとされています。この実験で、物体は同じ加速度で落下し、アリストテレスの重力理論が誤りであることが証明されました。
しかし、実際に行われたかどうかは不確かで、多くの歴史家はガリレオの実験が実際の実験ではなく、思考実験であったと考えています。
現代の物理学では、空気抵抗を除いた真空中で、物体は質量に関係なく同じ加速度で落ちるとされています。
まとめ(結論)

空に向けて銃を撃つ行為は、いかなる場合であっても非常に危険であり、避けるべきです。
その理由は以下の通りです。
祝砲や威嚇射撃など、いかなる目的であっても、空に向けて銃を発射する行為は、人命を危険にさらす可能性があり、絶対に避けるべきであると結論付けられます。
アメリカにおける研究
1985年以降に落下弾による負傷で治療を受けた118例を対象とした研究では、負傷者の77%が頭部に被弾し、死亡率は32%に達していました。これは、同一医療センターで治療された一般的な銃創患者と比較して、明らかに高い死亡率と報告されています。
プエルトリコにおけるCDCの調査
CDCが実施した、2003年の新年に発生した祝砲による銃撃事件の調査では、2日間で19件の負傷(うち1件は死亡)が確認されました。 これらの事例は主に12月31日深夜に特定の公営住宅地で発生し、被害者には子どもや女性が多いという特徴が見られました。
報告書によれば、空中に発射された弾丸は、200フィート/秒以上の速度で落下し、人間の頭蓋骨を貫通して重傷または死亡を引き起こす可能性があるとされています。 なお、プエルトリコでは2012年以降、啓発キャンペーンの効果により、新年の祝砲に伴う流れ弾による死亡事故は確認されていません。
トルコにおける研究
2014年から2023年の10年間に、トラブゾンおよびイスタンブールの3病院で治療された祝砲関連負傷(CGRI)を遡及的に分析した研究では、48件のCGRIが確認され、そのうち8件(16.7%)が死亡例でした。
負傷者の64.6%は男性で、39.6%は0〜17歳の子どもでした。最も多い負傷部位は頭頸部・顔面(39.6%)であり、事件の87.5%が農村部で発生していました。また、発生頻度は6〜8月に高い傾向が認められました。 発砲理由としては、特定できた事例の中で結婚式が最も多くを占めています。
さらに、2013〜2022年にトラブゾン法医学グループ議長室で実施された銃創剖検695件のうち、9件が落下弾による死亡と特定されました。これらの事例では、7例が頭部、1例が眼、1例が鼠径部に被弾しており、8例で弾道が上方から下方へ向かっていました。
加えて、2022年1月〜2023年6月にトルコ国内の全国紙ウェブサイトを調査したところ、落下弾に関連する54件の事件が報道され、23件が負傷、16件が死亡、15件が物的損害につながっていました。 負傷部位は頭部、背部、肩、頸部、胸部、手、腕、脚など多岐にわたり、住宅街、庭、テラス、バルコニー、祭り、結婚式、遊び場など、さまざまな環境で被害が発生していました。 なお、トルコでは落下弾による死亡事件において、最高裁判所が加害者を未必の故意による殺人罪で処罰した事例が報告されています。
落下弾の物理的特性
医師の見解によれば、発射後に落下する弾丸は90〜180メートル/秒の速度で地上に到達し、60メートル/秒未満であっても頭蓋骨に致命的損傷を与える可能性があります。
米陸軍少将ジュリアン・ハッチャーによる実験では、標準的な.30口径弾を垂直に発射した場合、弾丸は約2,743メートルまで上昇し、落下時の終端速度は約91.4メートル/秒に達すると計算されています。 別の報告でも、.30口径弾の終端速度は約89.4メートル/秒(約200マイル/時)とされ、皮膚を貫通するのに十分な速度であると指摘されています。
用語集
- .22LR:小口径ライフル弾の一種で、民間用途および競技射撃で広く使用される。
- .223 Remington(.223rem):民間・軍用ライフルに用いられる小口径弾で、5.56×45mm NATO弾とほぼ同等の性能を有する。
- .30-06 Springfield:米国で広く使用される.30口径ライフル弾の代表的な弾薬。
- .30-30 Winchester:米国製の中型ライフル弾で、主にレバーアクションライフルに使用される。
- .38 Special(.38spl):セミオートピストルおよびリボルバーで使用される中口径拳銃弾。
- .380 ACP:軽量なセミオートピストル向けの弾薬で、主に護身用途として用いられる。
- .44 Magnum:大型リボルバー用のマグナム弾で、高威力と強い反動が特徴。
- .45 ACP:大口径セミオートピストル用弾薬で、米軍の制式弾薬として長く採用されてきた。
- 5.45×39mm:旧ソ連製アサルトライフル向けの小口径弾。
- 5.56×45mm NATO:米軍をはじめとするNATO諸国の標準アサルトライフル弾で、.223 Remingtonと高い互換性を持つ。
- 7.62×39mm:旧ソ連系アサルトライフル用の中口径弾で、AK-47などに使用される。
- 7.62×51mm NATO:NATO標準のライフル弾で、各種ライフルおよび機関銃に使用される。
- 7.62×54mmR:ロシア・旧ソ連のライフルおよび機関銃で使用されるリム付き弾薬。
- 9mm(9×19mmパラベラム):民間・軍用で最も広く普及している中口径セミオートピストル弾。
- 終端速度(Terminal velocity):物体が自由落下中に、空気抵抗と重力が釣り合い、それ以上速度が増加しなくなる際の速度。
- 自由落下速度:物体が重力のみを受けて落下する際の速度。
- タンブリング(Tumbling):弾丸が飛翔または落下中に回転軸を失い、横転しながら不安定に落下する現象。
- ライフリング(Rifling):銃身内に刻まれた螺旋状の溝で、弾丸に回転を与え飛翔を安定させるための加工。
- ジャイロ効果:回転体が角運動量により姿勢を安定させる物理的作用。
- 跳弾(Ricochet):弾丸が地面や硬い物体に衝突し、跳ね返る現象。
- 祝砲(Celebratory gunfire):祝い事などで空に向けて発射される銃弾。公的行事では通常、空砲が使用される。
- 威嚇射撃(Warning shot):対象に命中させる意図なく、威嚇目的で行われる発砲。
- Reckless Discharge:無謀または危険な発砲行為を指す法的用語。
- CDC(Centers for Disease Control and Prevention):アメリカ疾病予防管理センター。公衆衛生、事故防止、疫学調査などを担う機関。
- ft-lbf(フットポンド):マズルエナジーを表す単位で、弾丸が銃口を離れる瞬間の運動エネルギーを示す。
- マズルエナジー(Muzzle energy):弾丸が銃口を離れた瞬間に持つ運動エネルギーで、弾薬の威力指標として用いられる。
- 弾頭重量(Bullet weight):弾丸の質量で、発射速度や運動エネルギーに影響を与える要素。
- 発射角度(Elevation angle):銃を構えた際の水平線に対する角度。
- 実弾(Live ammunition):火薬と弾頭を備え、発射可能な状態にある弾薬。
参考文献
- 1Point21Interactive, Celebratory Gunfire Overview.
- ABC News, Girl Dies Years After Gunfire Incident at Home.
- Ammo.com, Stray Bullet Death Statistics.
- arXiv, External Ballistics Research.
- Arts Automotive, Will a Falling Bullet Kill You?.
- Backwoods Home, The Danger from Bullets Falling from the Sky.
- CDC MMWR, Reports on Celebratory Gunfire Incidents.
- Cincinnati Police Department, Firearms Deployment Procedures.
- DTIC, Rifling and Bullet Trajectory Study.
- Everyday Marksman, Rifling Twist Rate Explained.
- Firing a Gun Into the Air Can Kill Someone.
- Forbes, The Science of Why Firing Your Gun Up Into the Air Can Be Lethal.
- HowStuffWorks, Can a Falling Bullet Kill You?.
- HowStuffWorks, What Happens to a Bullet Shot Straight Up?.
- HMICFRS, Effectiveness of Police Firearms Deployment.
- Houston Chronicle, Bullet Falling from the Sky Kills Houston Man.
- Lund University Research Portal, Use-of-Force Study.
- MYTHS About Celebratory Gunfire (2023).
- New Scientist, Can Bullets Fired Upwards Cause Injuries When They Return to Earth?.
- NPR, Police Warning Shots May Be in for a Comeback.
- OJP, Warning Shots Revisited.
- PMC, Case Studies on Falling Bullet Injuries.
- PMC, Falling Bullet Injuries.
- PMC, Injuries from Stray Bullets – Case Study.
- Police1, Police Warning Shots – Consensus Lacking.
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- PubMed, Study on Bullet Injuries and Related Data.
- Reuters, At Least 17 Killed by Celebratory Gunfire in Kabul.
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- ScienceDirect, Falling Bullets and Injury Patterns.
- Shooting Classes Blog, Are Firing Warning Shots a Good Idea?.
- Savage Arms Blog, How Rifling Works: Button Rifling and Twist Rates.
- The Guardian, How Dangerous Is Celebratory Gunfire?.
- The Science of Why Firing Your Gun Up Into the Air Can Be Lethal.
- Travma Journal, Falling Bullet Injuries — Clinical Perspective.
- University of Illinois Physics FAQ, Bullet Trajectory and Spin.
- Wikipedia, Celebratory Gunfire.
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- Wikipedia, Gunshot Wound.
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- Wikipedia, Physics of Firearms.
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- What Happens to a Bullet Shot Straight Up in the Air?
