銃における「カービン」とは何でしょうか?
「PCC」とは、どんなライフルでしょうか?
今回はカービンの由来とライフルの全長が変化した歴史的背景について解説します。
カービンとは?
カービン(CARBINE)とは、従来のライフルより全長が短いライフルです。
語源はフランス語の「carabinier」で、ナポレオン戦争時代のマスケット銃を持つ騎兵を指して呼ばれました。
騎兵はもう現代の軍において存在しませんが、騎兵が存在していた時代には馬で移動したり、馬上射撃する際に長いライフルでは扱い難いため、全長が短いライフルを装備していました。これがカービンの由来となっています。
カービンは長銃身のライフルより短く軽量で取り回しいやすいため、特殊部隊や後方支援部隊で主に使用されましたが、現在では多くの軍においてカービンの長さが軍用ライフルの標準サイズとなっています。
M16ライフルからカービンに発展した事例
米軍のM16ライフルを例にあげると、M16は本来、M16A1やM16A2といった、銃身長20インチの銃身(バレル)を利用していました。
しかし、ベトナム戦争では車両やヘリコプターへ乗降するさいに取り回しやすい、全長の短いライフルに需要が生まれます。
そこで、M16を短縮したCAR-15/XM177(カービン)が開発され、特殊部隊を中心に使用されるようになります。
CAR-15/XM177は銃身長10~11.5インチのため、従来よりコンパクトで扱いやすい特徴があります。
しかし、短くなったカービンには有効射程距離と命中精度が低下する問題がありました。
銃と使用弾薬は相互に適合させることで最高のパフォーマンスが得られるように設計されるため、銃身長20インチ用として設計された弾薬を銃身長10インチのライフルで使用すると、飛翔中の弾頭が空気抵抗により不安定化し、命中精度低下につながります。
軍は問題を解決するため、1983~1987年に新型ライフルであるXM4ライフルをテストし、このモデルはのちに「M4カービン」として米軍に制式採用されました。
銃と弾薬を設計し直すことにより問題を克服し、湾岸戦争をはじめとした作戦で活躍するようになった歴史があります。
カービンのメリットとデメリット
カービンには以下のメリットとデメリットがあります。
カービンのメリット
- 車両や航空機などへの乗降時に支障がなく、取り回しやすい
- 屋内やジャングルなど、狭い場所で使用しやすい
- 軽量なため、長時間携帯しやすい
カービンのデメリット
- 銃身長の短縮により弾速が低下しやすい
- 銃声が大きい(周囲の状況確認が困難になる)
- マズルフラッシュ(発射炎)が大きくなりやすい(使用弾薬による)
- 長距離のターゲットに対して貫通力や殺傷力が低下しやすい
- 銃身の長さによっては、短銃身専用に調整された弾薬が必要
- 高圧作動するためパーツが消耗しやすい場合がある
カービンの定義とは?
AR15 / M16 / M4では銃身長が16インチのモデルをカービンと呼びますが、「これだけ短ければカービン」といった定義はありません。
カービンの長さに定義はなく、元となったライフルより全長が短いライフルがカービンと呼ばれます。
しかし、本来のカービンの意味とは反対に、元々全長が短いピストルやサブマシンガンの銃身長を16インチまで延長して「カービン」と呼ばれるモデルも存在します。
この「16インチ」という長さは、アメリカの法律の影響によるもので、法的にライフルのカテゴリーに入るには銃身長16インチ以上が必要です。
銃身長が16インチに満たないライフルは「ショート・バレル・ライフル(SBR)」のカテゴリーに入り、SBR所有には登録や納税(200ドル)が必要であり、州や地域によっては規制されています。
昔のライフルの全長が長い理由
前装式ライフルは15世紀ごろから戦場で使用され始め、16世紀にライフルを装備した騎兵が存在していました。
前装式ライフルは、銃口から弾と火薬を装填し、1発ごとに発射と装填を繰り返すため、現代の連射可能なライフルと比べると非常に遅い発射間隔になります。
当時は銃身長が40インチを超えるライフルも多く、これには次の理由があります。
- 長い銃身を利用することで弾速を向上させ、威力が得られる。
- サイトレイディアス(フロントサイトとリアサイトの間隔)が長いため、精密に狙うことが可能。
- 銃剣(バヨネット)を着剣し、リーチの長い槍として使用可能。(着剣された長いライフルは一般兵が敵の騎兵と闘う場合にも有効)
- 前方の仲間を誤射する事故を防止。
当時、兵士たちは横並びに隊列を組み、号令と共に射撃していました。
仮に各兵士がバラバラに射撃と装填を繰り返すと、発射の間隔が長くなり火力の空白が生じます。
これを防ぐため、前列の兵士が発射し次弾を装填する間に、後列の兵士が発射し、後列が発射したら装填を終えた前列が再び発射するというサイクルを繰り返すことで、一定の火力を維持できます。
このとき、ライフルの全長が短いと後列の兵士が前列の兵士を誤射する恐れがあります。そこで長いライフルを使用することで後列の兵士の銃口が前列の兵士より前へ突き出る状態を維持し、安全が確保されます。
しかし、やがて機関銃の登場により、騎兵や隊列を組む戦術は効果を失いました。
短いライフルに移行した歴史的背景
騎兵は馬上でライフルを操作するため、長いライフルを装備することは困難でした。
馬上では片手でライフルを保持する場合もある他、長いライフルでは装填も困難なため、これがカービン誕生の由来となっています。
しかし、騎兵ではない一般兵が装備するライフルも時代と共に全長が短くなり、銃身長24~26インチのライフルが多く採用されるようになりました。
これには次の理由があります。
- 黒色火薬の時代から強力な無煙火薬の時代となり、短い銃身長でも必要な弾速が得られるようになった。
- 歩兵の機械化が進み、車両の乗降などで短いライフルの方が扱いやすくなった。
- 戦術の変化により素早い装填が必要になったため、扱いやすい短いライフルが必要とされた。
また、フランス軍に関してはアジア地域での植民地政策において、欧州人より平均身長の低いアジア人に長いライフルは扱いにくいため、短いライフルを採用した背景もあります。
PCC(ピストル・キャリバー・カービン)とは?
PCC(ピストル・キャリバー・カービン)とは、ストックが備わった拳銃弾を使用するカービンです。
西部開拓時代に活躍したレバーアクションのウィンチェスター1873カービンもそのうちのひとつで、リボルバーでも使用される弾薬(.44-40ウィンチェスター等)を使用します。
現在では9mmや.40S&Wを使用するPCCが流行しており、IPSCやUSPSAといった射撃競技のPCC部門でも利用されています。
PCCはストックが備わった銃から拳銃弾(ピストル弾)を発射することで反動が小さくコントロールしやすいため、近距離(約100~200m以内)において高い命中率と速射性が期待できます。
また、ピストルより長い銃身から発射されるため弾速が向上し、ホームディフェンス用としても強力で人気があります。
定義上、ストック付きマシンピストルやサブマシンガンもPCCのカテゴリーに分類可能ですが、現在では一般的にセミオートモデルを指してPCCと呼ばれています。
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