
この記事の要約
- .357マグナムはブラックベアなら急所への正確な命中で仕留められるが、威力は.44マグナムの半分程度で信頼性に乏しい。
- 実例では成功例もあるが、貫通力不足や弾種選択の失敗で止められないケースも多く、特にグリズリーやヒグマには不向き。
- 専門家の総意として、クマ猟には.44マグナム以上の大口径やハードキャスト弾が推奨され、.357は「最後の手段」に過ぎない。
.357マグナムは多くのハンターにとって魅力的なリボルバーですが、クマ猟に使えるのかは議論の分かれるところです。
本記事では、.357マグナムの威力やクマの種類ごとの有効性、そしてクマ猟に適した弾頭の選び方まで、実例を交えて詳しく解説します。
※専門用語は記事の最後で解説しています。
.357マグナムでクマを仕留めることは可能?

結論から言えば、.357マグナムでクマを倒すことは可能ですが、限界的な選択肢です。
.357マグナムは以前取り上げた.44マグナムよりも威力が大幅に劣り、多くの専門家は「最後の手段」として、あるいは理想的な条件下でのブラックベア相手に限って推奨しています。
.357マグナムは.44マグナムに比べて発生エネルギーが著しく低くなります。標準装弾のマズルエナジーは539〜583 ft-lbf程度で、高圧弾薬でも700 ft-lbfを若干超える程度です。これは.44マグナムのおよそ半分に過ぎません。
.357マグナムは対ブラウンベア(グリズリーやヒグマ)における「許容可能な最小口径」とされています。つまり、推奨されるというよりは「かろうじて実用レベル」という位置づけです。
実例が示す.357マグナムの効果

アラスカ州のブラウンベア・ガイド、フィル・ショーメーカーは、2010年代に.357マグナムリボルバーで巨大なコディアックベアを一発で仕留めたことで知られています。使用したのはノルマ社製の高圧弾(180グレインFMJ)で、約45センチもの骨と筋肉を貫通しました。
この事例は、急所への正確な命中と十分な貫通力があれば、.357マグナムでも大型のクマを倒せることを証明しました。
他のハンターやガイドの証言も、この結果を裏付けています。特にハードキャスト弾や特注ハンドロード弾を用い、心肺や中枢神経を正確に狙った場合には十分な効果を発揮するとされます。

一方で、長年コルト・パイソンを携帯していたガイドのウェイン・ボソウィッツは、.357マグナムの限界を示す経験をしています。クマの胸に158グレインのJHP弾を6発命中させても止められませんでした。この事件をきっかけに、彼はより大口径の銃が必要だと判断しました。(この事件に関しては、貫通力が低いJHP弾を使用したことが悪手だった可能性もあります)
このように.357マグナムは条件次第では効果を発揮しますが、信頼性には限界があります。一般的には.44マグナムや.454カスールなど、より強力な口径が推奨されます。
- フィル・ショーメーカー(Phil Shoemaker)は、アラスカ州で四十年以上活動してきた著名なブラウンベア猟のガイドであり、家族経営の「Grizzly Skins of Alaska」を拠点にハンティングとフィッシングを指導してきました。2016年には釣り客を守るために9mmハンドガンで巨大なブラウンベアを撃退したことで世界的に知られるようになりました。執筆活動も行い、狩猟雑誌やブログで実戦的な知識を発信し続けており、アラスカの狩猟文化を伝える第一人者として高く評価されています。
- ウェイン・ボソウィッツ(Wayne Bosowicz)は、妻ドナとともに「Foggy Mountain Guide Service」を設立。ブラックベア猟を中心に活動し、全米でも屈指の成功率を誇るガイドとして「ブラックベアガイドの第一人者」と呼ばれました。2017年に73歳で亡くなりましたが、50年以上にわたる活動を通じてメイン州の狩猟文化に影響を残しました。
クマの種類による有効性の違い

ブラックベアやツキノワグマに対しては、適切な弾薬と正確な命中箇所を確保できれば十分な能力を発揮します。
専門家によれば、フルパワーの.357マグナムで無力化することは可能ですが、極めて高い精度が求められます。ただし、より良い選択肢(.44マグナム以上の弾薬など)が存在するため、積極的には推奨されていません。

一方、グリズリーやヒグマのような大型種に対しては不向きとされています。
経験豊富なハンティングガイドは「.357マグナムは護身用としてはせいぜい限界的であり、私ならもっと大口径のものを選ぶ」と明言しています。特に狩猟ではなく護身用として使用する状況では、慎重に忍び寄って正確に狙う余裕がないため、クマを仕留める難度は飛躍的に高まります。
.357マグナムはバリスティックゼラチンの実射テストで約18インチ(約46cm)の貫通が確認されています。一見十分に思えますが、バリスティックゼラチンはクマの骨や筋肉の硬度を再現していません。また、クマの急所は狭く、命中がわずかにずれるだけで無力化に失敗するリスクがあります。負傷したクマが激怒して襲いかかる危険性は常に存在します。
| 項目 | ブラックベア (Black Bear) | グリズリー (Grizzly Bear) |
|---|---|---|
| 生息地域 | 北米の広範囲 | 北米北部、アラスカ、カナダ一部 |
| 体格 | 中型(体長1.5〜2m、体重100〜300kg程度) | 大型(体長2〜2.8m、体重270〜680kg程度) |
| 攻撃性 | 比較的温厚 | 攻撃性が高く危険 |
| 毛色 | 黒〜茶色 | 茶色〜淡褐色(肩部に特徴的なこぶ状) |
| 推奨口径 | .357マグナムで条件付き可、.44マグナム推奨 | .44マグナム以上、ハードキャスト弾や大口径ライフル推奨 |
| 弾頭選択 | ハードキャスト、JSP、カッパーソリッド可 | ハードキャストまたは大型ライフル用弾頭推奨 |
| 狩猟難易度 | 中程度 | 高い |
クマ用弾頭は何を選ぶべきか?
クマ猟に適した選択肢としては、以下の弾薬が挙げられます。
| 項目 | ハードキャスト | カッパーソリッド | JSP |
|---|---|---|---|
| 構造 | 硬化鉛合金 | 一体型銅・合金弾 | 鉛芯+銅ジャケット、先端は軟質露出 |
| 拡張性 | 最小/ほぼなし | 限定的/ほぼなし | 制御された拡張 |
| 貫通力 | 深い貫通 | 深い貫通 | 中程度の貫通 |
| クマ適性 | 厚い皮膚や骨に最適 | 高い貫通力で硬い組織にも有効 | 大型クマには不向き |
クマ猟には、最低でも150〜180グレインの平らな先端を持つハードキャスト弾が必要です。標準的なホローポイント弾は過度に拡張して貫通力を失うため、クマには効果がありません。
ハードキャスト

| 項目 | ハードキャスト |
|---|---|
| 構造 | 硬化鉛合金 |
| 拡張性 | 最小/ほぼなし |
| 貫通力 | 深い貫通 |
| クマ適性 | 厚い皮膚や骨に最適 |
バッファロー・ボア社の180グレイン「ハードキャスト弾」は、口径に対して非常に重い非拡張型の鉛弾です。広いフラットノーズ(LFN)を持ち、通常はガスチェック(弾頭底部に付く金属製のガス漏れ防止板)が装着されています。
高速で発射されるこの弾頭は、骨や密な筋肉を直線的に貫通する性能を最大化するよう設計されています。そのため、急所や中枢神経に命中すれば、近距離でのクマ狩猟や野生動物に対する護身用に適しています。
| 弾薬名 | 弾頭 (重量/形状) | 初速 (fps) | マズルエナジー (ft-lbf) |
|---|---|---|---|
| .32 S&W ロング | 100 gr ワッドカッター | 900 | 179 |
| .32 H&R マグナム | 130 gr キース | 1,125 | 365 |
| .327 フェデラル・マグナム | 130 gr キース | 1,300 | 487 |
| .380 ACP +P | 100 gr フラットノーズ | 1,150 | 293 |
| 9mm ルガー +P | 147 gr フラットノーズ | 1,100 | 394 |
| .38 スペシャル | 158 gr キース | 1,250 | 548 |
| .357 マグナム | 180 gr キース | 1,400 | 783 |
| 10mm | 220 gr フラットノーズ | 1,200 | 703 |
| .44 スペシャル | 255 gr キース | 1,000 | 566 |
| .44 マグナム | 305 gr LBT-LFN | 1,325 | 1,188 |
| .45 ACP +P | 255 gr フラットノーズ | 925 | 484 |
カッパーソリッド

| 項目 | カッパーソリッド |
|---|---|
| 構造 | 一体型銅・合金弾 |
| 拡張性 | 限定的/ほぼなし |
| 貫通力 | 深い貫通 |
| クマ適性 | 高い貫通力で硬い組織にも有効 |
アンダーウッド社の120グレイン「カッパーソリッド弾」は、軽量の一体型銅弾で鉛のコア(弾芯)を持ちません。重量保持と貫通力を確保しつつ、通常のFMJよりも広い創傷チャンネルを形成するよう設計されています。
設計によってはわずかに拡張する場合もあれば、ソリッド弾のように振る舞うこともあります。高速度と十分な貫通力、そして非常に強固な構造的耐久性を兼ね備えています。
JSP(ジャケッテッド・ソフトポイント)

| 項目 | JSP |
|---|---|
| 構造 | 鉛芯+銅ジャケット、先端は軟質露出 |
| 拡張性 | 制御された拡張 |
| 貫通力 | 中程度の貫通 |
| クマ適性 | 大型クマには不向き |
JSP(ジャケット付きソフトポイント)弾は、伝統的な鉛芯を持つ弾で、厚い銅ジャケットと小さな露出鉛先端を備えています。標準的な.357ディフェンス用弾(158〜180グレイン程度)よりも重く、急激に拡張するのではなく緩やかに「マッシュルーム化」するよう設計されています。そのため、深い貫通と組織破壊の両方を実現します。
純粋なハードキャスト弾と急速に拡張するホローポイント弾の中間的な性格を持つ妥協型の弾といえますが、大型のクマに限っては貫通力が不足する傾向があります。
結論:クマ猟にはおすすめできない

結論として、.357マグナムはブラックベアを仕留めることは可能ですが、.44マグナムに比べて信頼性は著しく劣ります。
専門家の総意は一致しています。.357マグナムは「他の選択肢がない場合」や「強い反動を処理できない場合」にのみ選ばれるべきであり、一般的には.41マグナム、.44マグナム、あるいは10mmオート+多弾数が推奨されています。あるハンティングガイドは「.357で正確に命中させれば確かにクマを仕留められるだろうが、推奨はしない」と語っています。
成功は「重いハードキャスト弾の選択」「高い命中精度」「複数発の命中」、そして「ハイリスクを受け入れる覚悟」にかかっています。グリズリーやヒグマに対しては不向きであり、頼るべきではありません。
クマ猟において.44マグナムと.357マグナムのどちらかを選ぶなら、答えは明らかに.44マグナムです。
- .357マグナム(.357 Magnum):中型リボルバー用の高圧弾で、威力はあるがクマ猟では限界的な口径です。
- .44マグナム(.44 Magnum):大口径で高威力のリボルバー弾で、クマ猟では標準的な推奨口径です。
- ブラックベア(Black Bear):北米に多い中型のクマで、.357マグナムでも急所へ当たれば仕留められます。
- グリズリー(Grizzly Bear):大型で攻撃性が高いクマで、.357マグナムでは貫通不足になりやすい相手です。
- ヒグマ(Brown Bear):日本やユーラシアに生息する大型クマで、十分な殺傷力には大口径弾が必要です。
- FMJ(Full Metal Jacket):鉛芯を銅で完全に覆った非拡張弾で、貫通力が高く骨に強いタイプです。
- JHP(Jacketed Hollow Point):先端が空洞の拡張弾で、軟 targets には有効ですがクマには貫通不足を起こします。
- JSP(Jacketed Soft Point):先端に鉛が露出した半拡張弾で、適度な変形と貫通の両立を狙った設計です。
- ハードキャスト(Hard Cast):硬い鉛とフラットノーズで構成される非拡張型弾頭で、深い貫通を目的とします。
- カッパーソリッド(Copper Solid):一体型の銅弾で、変形しにくく貫通力が高い構造を持つ弾頭です。
- フラットノーズ(Flat Nose):平らな先端形状で、直進性と貫通力を高める目的で用いられます。
- ガスチェック(Gas Check):鉛弾底部に付く金属板で、高圧発射時のガス漏れや鉛付着を防ぐ部品です。
- マズルエナジー(Muzzle Energy):銃口から出た瞬間の弾の運動エネルギーを示す指標です。
- 初速(Muzzle Velocity):銃口を出る瞬間の弾の速度で、貫通力に強く影響します。
- バリスティックゼラチン(Ballistic Gelatin):人体組織を模した材料で、弾頭性能の比較に使われます。
- ハンドロード(Handload):個人が再装填した弾薬で、威力や特性を調整できます。
- グレイン(Grain):弾頭重量の単位で、1グレインは約0.0648グラムです。
- リボルバー(Revolver):回転式弾倉を持つ拳銃で、.357や.44マグナムで多く使われます。
- コディアックベア(Kodiak Bear):アラスカに生息する大型のブラウンベアで、高威力弾が必要です。
- ディフェンス用弾(Defensive Load):対人防御を目的に設計された弾で、クマには貫通不足になりがちです。
- マッシュルーム化(Mushrooming):弾頭先端がキノコ状に広がる変形で、組織破壊と減速を生みます。
- キース弾(Keith Bullet):エルマー・キースが設計したフラットノーズ系の高貫通鉛弾です。
- LFN(Long Flat Nose):長く平たい先端形状を持つ弾頭で、直進性と貫通力を重視した設計です。
- LBT-LFN(Long Flat Nose by LBT):LBT社が設計した貫通力最重視のフラットノーズ弾頭です。
- +P(Plus P):標準より高い圧力で装填された高威力仕様を示す表示です。
- 護身用射撃(Defensive Shooting):緊急時に距離や狙いが限定される射撃状況を指します。
- 急所(Vital Zone):心臓・肺・中枢など致命傷を与える部位で、クマでは小さく狙いが難しい場所です。
- foggymountain.com – Bear Loads: Hunting Black Bear
- foggymountain.com – Handgun‑Bear Hunting / Bear Guns – How to Hunt Black Bear
- alaskagunsite.wordpress.com – The Case for the .357 Magnum
- rugerforum.com – Handguns in Defense Against Bears by Caliber: .357 Mag, .45 ACP
- snubnose.info – .357 Magnum and Grizzly Bear Defense
- longrangehunting.com – .357 Magnum for Bear…
- bear‑hunting.com – Back‑Up Bearguns
- grandviewoutdoors.com – Are Handguns Effective Against Bear Attacks?
- outdoorlife.com – 10mm vs. .44 Mag Bear Guns
- その他、多数の資料







